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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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転生したら恋人と名乗る男がイケメンすぎたので、記憶喪失のフリをすることにしました

作者: ゆにみ
掲載日:2026/08/17

 「――エレナ」


 どこか遠くで、誰かの声が聞こえた。


 瞼越しに柔らかな光を感じ、私はゆっくりと目を開ける。最初に目に入ったのは、見覚えのない天井だった。身体には、ふわりとした上質な布団がかけられている。


 ここ、私の寝室じゃない……?


 ぼんやりとした頭でそう思ったところで、ふと気づく。そういえばさっき、誰かの声が聞こえた。


 (……エレナ?)


 全く聞き覚えの無い名前だ。私は首を傾げながら、声のした方へ顔を向けた。


 そこにいたのは、淡く艶めく金髪と、宝石のような紫色の瞳を持つ青年だった。彫刻のように整った顔立ちに、思わず息を呑む。


 「かっこいい……」


 無意識に呟いたその時。青年は勢いよく立ち上がると、そのまま私の身体を抱きしめる。


 「エレナ……!」


 突然のことに、私は身体を強張らせた。

 けれど、青年はそんな私の反応にも気づかないほど、安堵したように声を漏らしていた。


 「本当によかった……。君が目覚めなかったら、どうしようかと思った」


 その声には、心から私を心配していたような響きがあった。

 でも、私はこの状況が全く理解できなかった。


 (ここはどこ? この人は誰? そもそも……私は、誰?)


 自分でもおかしなことを考えているのは分かっている。けれど、本当に分からないのだ。私は昨日まで普通に仕事をして、寝て……そして、起きたらこの状況。


 目を覚ましたら、見知らぬ部屋にいて、知らない青年に抱きしめられている。


 「……エレナ? どうしたの?」


 しかも、私の名前は「エレナ」らしい。

 青年は私の顔を覗き込むように、首を傾げている。


 (いや……めちゃくちゃかっこいいんだよなあ)


 こんな状況だというのに、私は青年の顔に見惚れていた。


 だって、本当にかっこいい。こんな顔、現実で見たことがない。


 (……いや、待って)


 ”現実”と言う言葉が妙に引っかかった。私は、ゆっくりと瞬きをして、考え込む。


 昨日まで普通に仕事をしていたはずなのに、目が覚めたら目の前には見覚えのない美青年がいた。

 そして、彼は私を「エレナ」と呼ぶ。


 この状況って、もしかして――。


 (……転生ってやつでは?)


 そう考えれば、すべてに説明がつく……気がする。もちろん、何も確信はない。

 でも、もし本当に転生したのだとしたら。


 目の前にいる、このとんでもなく顔のいい青年は――もしかして、物語のヒーローなのでは?


 それに、今の私は自分が何者なのかも、この場所がどこなのかも分からない。そんな状態で「私はエレナじゃありません」なんて言って、追い出されたら困る。


 私は顎に手を当て、しばらく考え込んだ。そして、一つの考えに辿り着く。


 目の前の青年をちらりと見て、心の中でそっと決意した。


 (よし、記憶喪失のフリをしましょう!)


 これなら、この状況でも何とかなるかもしれない。

 そして、私は勢いよく顔を上げる。


 「あの……あなたは誰ですか?」


 すると、青年の紫色の瞳が大きく見開かれ、ぴたりと彼の動きが止まる。静かな部屋に、妙な沈黙が落ちた。


 (流石に無理があった……?)


 私は布団をぎゅっと握りしめながら、青年の反応を窺う。

 やがて彼は、ゆっくりと口を開いた。


 「……僕は、ユラン。君の恋人だよ」


 「恋人……?」


 思わず聞き返すと、ユランは穏やかに頷いた。


 「うん。それに、僕たちは一緒にここで暮らしていたんだ」


 ……ん?


 私は周囲を見回した。そして、ふと視線を落とす。


 このベッド……一人用では?

 どうみてもシングルベッドにしか見えない。


 私がベッドをじっと見つめていることに気づいたのか、ユランが少しだけ苦笑した。


 「ああ……ベッドのこと?」


 「え、ええ」


 「前に君が、寝るときもずっと僕にくっついていたいって言っていたから。広い方がいいんじゃないかって言ったんだけど、君がどうしてもって」


 「そうなんですか……」


 なるほど。

 恋人同士なら、それくらい言うこともあるのかもしれない。私には全く覚えがないけれど。


 「でも……覚えていないみたいだね」


 そう言ったユランは、少し寂しそうに目を伏せた。

 けれど、すぐに顔を上げる。


 「大丈夫だよ。僕は君のことを大切に思っているから。無理に何かを思い出す必要もないし、変なこともしない」


 そう言って、ユランは柔らかく微笑んだ。


 「だから、安心してここで暮らすといいよ」


 なんだろう。とても理解が早い。さすがヒーローかもしれない男なだけある。

 それに、めちゃくちゃ優しそう。甘やかしてくれそうな雰囲気すらある。


 こんなに顔がよくて、優しくて、私のことを大切にしてくれる恋人。


 もしかして私、ものすごく当たりを引いたのでは?


 「……ありがとうございます」


 私がそう答えると、ユランは嬉しそうに目を細めた。


 「ふふ。こちらこそ。よろしくね、エレナ」


 こうして私は、ここに住むことになったのだった。




 ◇



 やっぱりユランはめちゃくちゃ優しい。


 「無理しないで寝てて?」


 話を聞けば、私は三日間も高熱を出して寝込んでいたらしい。まだ病み上がりだからと、ユランは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。


 今だって、私の背中をタオルで拭いてくれているところだ。


 (イケメンにこんなことをさせるなんて……)


 なんだか申し訳ないというか、罰が当たりそうな気がする。


 けれど、不意に視線を落とした私は、胸元にくっきりと残っている赤い跡に気づいた。


 (なに、これ……?)


 虫刺され? 痒くはないけれど……。


 じっと見つめていると、すぐそばからユランの声が落ちてきた。


 「じゃあ、次は前を向いて?」


 「ま、まえ!?」


 思わず声が裏返る。

 いくら元の私がユランと恋人同士だとしても、今の私は全く覚えていないのだ。それは流石に恥ずかしすぎる。


 「じ、自分でやるので……!」


 「そう? そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」


 ユランはそう言いながら、彼の指が不意に私の背中をスッとなぞる。


 「ひゃ……っ」


 ぞくりと背筋が震え、思わず小さな声が漏れた。

 自分でも驚くほど反応してしまって、途端に顔が熱くなる。


 「……ふふ」


 耳元で、ユランが小さく笑った。


 「ここにもね……あるんだよ」


 「え?」


 何のことだろう?

 振り返ろうとしたけれど、その前にユランが柔らかく笑う。


 「かわいいね」


 「な、なに……っ」


 「ふふ。じゃあ、前は自分でできる?」


 そう言って、ユランは私にタオルを差し出した。私は慌ててそれを受け取る。


 「……はい」


 そのままユランから逃げるように背を向け、私は自分で身体を拭き始めた。


 (あ、あんなこと……!)


 心臓がうるさいほどに、耳に響く。病み上がりだからだろうか。


 (いや、ユランのせいだ……っ)


 私は熱くなった頬を両手で押さえた。


 けれどその背後で、ユランがどんな顔をして私を見つめていたのか、私は知らなかった。





 ◇



 ユランと暮らし始めてから数ヶ月が経った。


 「ん……っ」


 唇が重なり、ゆっくりと離れる。

 そして、またゆっくりと重なり合う。


 私はすっかり、ユランのことが好きになってしまった。彼は一日に何度も口付けを求めてくる。そのたびに私も応えるけれど、何度繰り返しても、この熱には慣れそうにない。


 ユランは優しい。


 いつだって私のことを気遣ってくれるし、私が話をすれば、嬉しそうに微笑みながら最後まで聞いてくれる。


 何気ない仕草も、かけてくれる言葉も、その一つひとつから深い愛情が伝わってくる。


 (好きにならない方が、難しいでしょう?)


 今ではもう、彼と離れることなんて考えられなくなっていた。


 目の前にある紫色の瞳は、熱を孕んでいる。


 もしかしたら、私はこの身体に憑依をしたのかもしれない。いつか元の世界へ戻ってしまうかもしれない。それがどうしようもなく怖いのだ。


 ……それ以上に、ユランと離れることが怖いのかもしれない。元の自分に嫉妬さえしてしまいそうだ。


 再び、唇が離れる。お互いの吐息が漏れて、見つめ合う。頭まで溶けてしまいそうな甘いひととき。


 「ねえ、ユラン」

 

 「ん? どうしたの?」


 「前の私は……どんな人だった?」


 ユランは少しだけ目を細め、懐かしむように微笑んだ。


 「そうだね……眩しいくらいの笑顔でね。君が笑うと、こっちまで幸せな気持ちになったよ。明るくて、とても素直で……可愛い人だった」


 「そう……」


 知らない自分の話を聞いているようで、なんだか不思議な気持ちになる。


 そして、ユランが少しだけ困ったように笑った。


 「でも、たまに……僕を困らせることもあったね」


 「困らせる?」


 「うん。君はお茶目な人でね。かくれんぼが好きだったんだ」


 「かくれんぼ?」


 「そう。僕が探しても、なかなか見つからなくてね。まあ……そんなところも愛おしかったけど」


 その声は、まるで懐かしい思い出を語るようだった。


 「……今の私は、ユランを困らせてない?」


 何気なく尋ねると、ユランは一瞬だけ黙ったけれど、すぐにフッと微笑んだ。


 「ふふ。うん……そうだね」


 その答えの意味を考えるより先に、私は彼の胸元へ顔を寄せた。


 「ねえ、ユラン」


 「うん?」


 「私……あなたが大好き」

 

 ユランの腕が、そっと私の身体を抱き寄せる。そして、耳元で優しい声が囁かれる。


 「僕もだよ。愛してる」


 そうして私たちは、再び唇を重ねた。何度も何度も……お互いの存在を確かめ合うように。






 ◇



 いつものように口付けを交わし、互いの愛を確かめ合ったあと、エレナは疲れたように眠りへ落ちていった。


 その寝顔をしばらく見つめていたユランは、ふっと頬を緩める。


 「ふふ……。眠ってしまったね」


 そう呟きながら、エレナの髪をそっと撫でる。

 そして、ユランは静かに立ち上がる。そのまま、部屋の隅に置かれた机へ向かうと、ゆっくりと引き出しを開ける。


 そこには、いくつかの小さな道具がしまわれていた。


 手錠と、足枷。


 ユランはそれらを手に取ることもなく、しばらく眺めていた。


 やがて、ふっと微笑む。


 「……これは、今は必要なさそうだね」


 小さく呟いた後、ゆっくりと引き出しを閉じた。

 そして再びベッドへ戻ると、眠っているエレナの隣に腰を下ろした。


 「……僕は、今の君の人格も好きだよ」


 眠っている彼女に語りかけるように、優しく囁く。


 「たくさん甘やかしてあげる」


 エレナの頬へ手を伸ばし、その柔らかな肌を指先でそっと撫でる。


 「君は本当に、真面目で……そしてものすごく愚直だ」


 そして、愛おしそうに目を細める。


 「君は、自分が変わってしまったと思っているみたいだけど……」


 「それは、違うな。君は何も変わっていない」


 その声には、確信すら滲んでいた。


 「そういうところが……本当に愛おしい」


 ユランは眠るエレナを見つめたまま、くすりと笑う。


 「ふふ……可哀想にね」


 そして、エレナの首元へゆっくりと顔を近づけると、そのままかぷりと噛み付いた。


 顔を離したユランは、舌先で自身の唇をなぞる。


 「ずっと一緒だよ」


 そう囁いたユランは、何事もなかったかのように微笑んでいた。

倫理観ぶっ飛んでてすみません。

一応、ちゃんと二人には裏設定あります。

ヒントは「エレナは何も変わっていない」と「タイトル」です。


お読みいただきありがとうございました!

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