7話 呪いと「真実の愛」③
馬車が止まったのは森の中だった。
当然、ヴィクター様がエスコートしてくれるはずもなく、私は転げ落ちそうになりながら馬車から降りる。
ヴィクター様の後をついてしばらく歩くと、木々に囲まれた小さな家がぽつんと現れた。石造りの壁は苔むしていて、窓からはオレンジ色の明かりが漏れている。
ヴィクター様が扉をノックすると、中から声が聞こえた。
「入れ」
扉を開けると、薄暗い部屋の中に沢山のキャンドルが並んでいた。
壁には棚が並んでいて、そこには色とりどりの瓶が置かれている。薬草の束が天井から吊るされていて、部屋中に独特の香りが漂っていた。
そして、部屋の中央座っていたのは、黒いローブを纏った人物だった。
顔はフードで覆われていて、良く見えない。けれど、しわがれた声からして、恐らく老婆なのだろう。
「良く来た。迷える領主よ……今日は娘もいるのか」
魔女がゆっくりとこちらを見るのと同時に、ヴィクター様は私を指さした。
「コイツが、魔女に会いに行けとうるさいからな」
「う、うるさいって……」
私が抗議すると、ヴィクター様はそれを無視して魔女様の方へ歩いていった。
「稀代の魔女。改めて、俺の呪いについて聞きたい」
「ほう」
魔女様が頷く。
ヴィクター様は真っ直ぐに魔女を見つめて、聞いた。
「俺の呪いは――本当に真実の愛でしか解けないのか?」
「そうだ」
魔女は即答した。
その言葉を受けたヴィクター様は、私を振り返って大きくため息をついた。
「ほら言ったろ。だから無理だ。俺には恋愛なぞ理解できんからな」
そう言うと、ヴィクター様はくるりと踵を返して扉の方へ向かっていく。
そこで、私は一歩、魔女様の方に出た。
「魔女様、真実の愛の定義とは何でしょうか!」
魔女様がゆっくりとこちらを向いた。私は緊張しながらも、続ける。
「愛の形とは様々です。家族愛もあれば友愛もあります! だから、恋愛じゃなくても解けるんじゃないですか。どの種類の愛なのか、教えていただくことはできませんか?」
「……なるほど」
魔女が頷いた。
魔女様が「真実の愛」なんて、曖昧な言葉で伝えたのは何か意味があるはずだと思ったのだ。
けれど、次の言葉で希望は打ち砕かれた。
「だが、真実の愛が何かはここでは答えることができない」
「なぜですか!」
「……ここで答えれば、彼の者の呪いが永遠に解けなくなってしまうからだ」
魔女様の声は、どこか悲しげで。
私はそれ以上魔女様を問い詰めることができなくなってしまった。きっと、彼女も意地悪で教えてくれないわけではないのだろう。
「自分で見つけなければ、意味がない。それが呪いの条件だ」
呪いというものは、思ったよりも厄介らしい。
私はヴィクター様を振り返った。彼は腕を組んだまま眉間に皺を寄せていて、何を考えているのか全然わからない。
とりあえず元気づけようと、ヴィクター様に歩み寄る。
「とにかく、真実の愛とやらを片っ端から試しましょう!」
「適当なことばかり言うなよ、お前」
ヴィクター様が呆れた顔でこちらを見た。しかし、私はめげずに続ける。
「恋が駄目なら、友達ですよ! ヴィクター様、友達は?」
「馬鹿にしてるのか」
ヴィクター様の声が一段と低くなる。
(そうだよね、こんな怖いヴィクター様でも友達の一人くらい……)
たが、しばらく経って返ってきたのは。
「……いない」
それはそれは、小さな声だった。




