13話 「出来損ない」と「出来損ない」③
ヴィクター様は呆れた顔をしたまま、私を見つめた。
「お茶会……?」
「はい、お茶会です」
「今から?」
「はい、そうですが」
私は冗談を言っているわけではなく、至って真面目に発言している。本気で今からお茶会をしようと誘っているのだ。
「憧れがあったんです。おとぎ話に出てくるお茶会とか!」
両手を組んでうっとりと思い浮かべたのは、おとぎ話で見たお茶会だ。
メルヘンに装飾されたテーブルを囲んで、紅茶やケーキを食べるのだ。
「お前は、頭の中がおとぎ話だな」
「いてっ」
ぴんっ、と額を指ではじかれたことで、唐突に私の妄想は終わりを告げた。
「本当に、今からやるのか……?」
「はい! お茶会といえば、ケーキです!」
お菓子は、キッチンにある普段のお茶菓子を拝借するとして。
ビジュアル的にもど真ん中に大きなケーキが欲しい。
「ちなみに、ケーキを出す魔法とかあったり……」
「ない」
それならば、用意する方法はひとつだ。
私は立ち上がって、ヴィクター様の手を引っ張った。
「一緒に作りましょう!」
「は? 俺がケーキを? 今から?」
「休んでいてもいいですよ」
そう言ったけれど、ヴィクター様は立ち上がった。
「……頭痛薬が効いてきた。少しマシだ」
そう言って、私についてきてくれた。
キッチンに着くと、私は棚から小麦粉や砂糖を取り出した。
「何を作るんだ」
「チョコレートケーキです!」
私は、幼い頃にお母さんと一緒に作ったことを思い出しながら、材料を並べていく。
「卵を割ってもらえますか」
「……これでいいか」
ヴィクター様が器用に片手で卵を割る。
普段完璧主義な人ほど料理が下手というのがお約束な気がするが、ヴィクター様はかなり手際が良かった。
「上手ですね」
「これくらい、誰でもできるだろう」
私はボウルに卵と砂糖を入れて、泡立て器で混ぜ始めた。
「そんなに力を入れるな。優しく混ぜろ」
ヴィクター様が後ろから手を伸ばして、私の手に重ねた。
「こうだ」
「ヴィクター様もケーキ作ったことあるんですか?」
「あるわけないだろうが」
「馬鹿か」と暴言を吐いた彼は、くるくると綺麗にボウルの中身を混ぜていく。
頭の良い人というのは、物事を逆算して何でもできてしまうのかもしれない。
そんなことを思いながら、一緒に泡立て器を動かしていると、私はあることに気が付いてしまった。
(な、なんか凄い恋人同士みたいな距離感になってる気が……!)
まるで、ぴったりと後ろから抱きしめられるような恰好だ。なのに、当のヴィクター様は何も気にしていない様子で、無心に材料を混ぜ続けている。
私のことを異性として見ていないことは、間違いなかった。
「次は小麦粉だな」
「……」
パッと体が離れて、ヴィクター様が小麦粉を取りにいった。
どうやら、ドキドキさせられたのは私だけだったらしい。
「……はい」
「なんでやる気なさそうなんだ。お前が言い出したことだろう」
そう言われると何も言い返せなくなってしまう。
私は大人しく小麦粉をふるいにかけて、ゆっくりと混ぜていく。
その間にヴィクター様がチョコレートを湯煎で溶かしてくれた。甘い香りがキッチン中に広がる。
「いい匂いですね」
「……まあな」
生地を混ぜ込んで、型に流し込む。オーブンに押し込むと、ヴィクター様が魔法で火をつけてくれた。
彼は先ほどよりも、表情が柔らかくなっていて思わず嬉しくなってしまう。
「後は焼けるのを待つだけです」
私がそう言った時、ぎいとキッチンの扉が開いた。
「なんだか楽しそうですね」
顔を覗かせたのはオリバーさんだった。寝間着姿だったから、きっと音で起きてしまったのだろう。
「あ、オリバーさん!」
「こんな夜中にお二人でお菓子作りですか?」
「お茶会をしようかと思って!」
私が説明すると、オリバーさんは目を丸くした。
「今からですか?」
「頭おかしいだろ、コイツ」
ヴィクター様は私を見下ろしながら、腕を組んでいる。そんなことを言いながらも、口元は少し緩んでいて。
「じゃあ、私も手伝っちゃいますかね!」
オリバーさんは寝巻の袖をぐいっと捲ると、棚を開け始めた。
中から、色々なお菓子が出てくる。クッキー、マカロン、小さなタルト。
私の午後のティータイムで出てくるものとは違ったお菓子が沢山あった。
「お前、その菓子どうしたんだ」
ヴィクター様が怪訝そうにオリバーさんに聞く。すると、オリバーさんは「ふふふ」と笑いながら、お菓子の缶を大切そうに抱きしめた。
「……私の日々の楽しみでして。いつも、こっそり食べているんです。今日だけは大盤振る舞いですよ」
その後は、三人で準備を進めた。
オリバーさんが紅茶を淹れて、私はケーキをオーブンから取り出した。ふっくらと焼き上がっていて、良い香りがする。
ヴィクター様が食堂のテーブルにクロスをきっちり敷いていく。やはり彼は、とっても几帳面らしい。




