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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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11話 「出来損ない」と「出来損ない」①


 さっそくその翌日、私はヴィクター様に連れられて、屋敷の一角にある小屋へ向かった。


 石造りの小さな建物で、扉には複雑な紋様が刻まれている。何だか、入ってはいけない場所のような雰囲気だった。

 

「ここは……?」

「魔道具庫だ」

 

 ヴィクター様が小さな鍵を挿すと、扉が淡く光って開いた。ひんやりとした空気が流れ出てくる。


 中に入ると、壁一面に棚が並んでいた。

 そこには様々な形の道具が並べられていて、剣、杖、指輪、首飾り、ランプや何に使うのか分からない怪しげな箱まである。


 どれもうっすらと光を放っていて、魔道具たちはまるで生きているみたいだった。

 

「ここで仕事を手伝ってもらうのはどうかと思ってな」

「というと……?」

 

 私は首を傾げた。

 仕事といっても、私には魔力が無い。できることがあるのだろうか。

 

「魔道具というのは魔力を自然に吸収する。よく触れる管理者の魔力に偏り、元の効果を失う」

「なるほど」

「俺くらいの魔力量になると、魔道具の手入れの回数も増える。定期的に魔力を抜かないといけなくなるからな」

 

 ヴィクター様は腕を組んで説明を続けた。

 

「だが、お前は魔力がない。お前が管理すれば、その問題も解決だ」

「私に、そんな才能が……」

「まあ、才能があってもセンスが無ければ終わりだがな」

 

 褒められているような、けなされているような。

 微妙に腹が立つ言葉を投げかけられ、私は頬をむっと膨らませた。

 

「……ヴィクター様に友達いない理由わかった気がします」

「なんだと」

 

 ヴィクター様が眉をひそめる。私は慌てて話を戻した。

 

「そ、それで、私は何をすれば?」

「魔道具の数の管理、手入れなどだな」

「手入れって私もできるんでしょうか?」

 

 魔法に触れたこともない素人なのだ。こんな大層な魔道具なんて手入れできるのだろうか。


 私が不安がっているのを察してか、ヴィクター様は棚の前へ歩いていった。背が高いから、上の方の棚にも簡単に手が届く。

 

「例えば」

 

 ヴィクター様が壁にかかった道具のひとつを取り出した。

 銀色の短剣だった。柄には青い宝石が埋め込まれていて、刃は鈍く光っている。よく見ると、細かい傷がついていた。

 

「これは氷の魔力を帯びた短剣だ。本来なら、魔力を少し込めれば周りの空気が凍りつくのだが……」


 そう言って、ヴィクター様は魔力を短剣に込める。すると、埋め込まれた魔石が光を放ち――ささやかな冷気が私のもとに流れてきた。


「……これって」

「俺の魔力を吸い込んだせいだな。俺の魔力は炎属性に近いから」

「なるほど」


 ヴィクター様は別の棚から小瓶を取り出す。

 中にはキラキラとした液体が入っていて、少しとろみがあるみたいだった。

 

「これは魔法植物の油に星屑の欠片を合わせたものだ。これを布に含ませて磨く」


 ヴィクター様は布に油を含ませると丁寧に短剣を磨いていく。

 ゆっくりと、刃に沿って布を動かしては傷を確認していた。


「磨くと、傷が消えていくはずだ」

「ほ、ほんとだ……!」


 磨き上がったとこを見ると、くすんでいた剣が鏡面のように輝いていた。ヴィクター様は、几帳面に傷を直していく。


「こうやって手入れする」


 磨かれた短剣が、さっきよりもずっと明るく輝いた。まるで息を吹き返したみたいだ。


 ヴィクター様は先程と同じように握り込むと、魔力を送り込む。

 その瞬間、パキッという音とともに空気が凍りつき、室内の気温が氷点下になった。


「さ、寒いですね」

「……すまん」


 ヴィクター様も寒かったのか、自分の手のひらに炎を灯したあと、そこにふっと息をふきかけた。

 とたんに、部屋全体がぽかぽかと温まる。


「ありがとうございます!」

「別に」


 ヴィクター様は、倉庫の端にある椅子にどかりと腰掛けた。

 そして、いつも読んでいる本を取り出すと、そのまま読書をはじめてしまった。


「私もやってみていいですか」

「好きにしろ」


 私は別の短剣を手に取った。こちらは赤い宝石がついていて、少し重たい。


 油を布に含ませて、ヴィクター様の真似をして磨いていく。最初はぎこちなかったけれど、だんだんコツがわかってきた。


(こ、これ、楽しいかも……!)


 少しずつ輝きを増していく短剣を見ていると、不思議と心が落ち着いた。

 こんな風に、何かに没頭するのは久しぶりだ。


「何が楽しいんだ」


 ふと顔を上げたヴィクター様が不思議そうにこちらを見ている。


「仕事できるのが嬉しくて」


 私は、弾かれたように顔を上げて笑顔で答えた。


「……私は魔力無しの役立たずの出来損ないですから!」


 ずっと、叔父とベアトリスにそう言われてきた。何をやっても「魔力がないくせに」と馬鹿にされて、何の役にも立てなかった。


 働き先もないから、家に寄生するしかない役立たずなのだ。


「出来損ない、か」


 ヴィクター様がページを捲る手を止めたかと思うと、ぱたんと本を閉じてこちらをじっと見ている。


「俺はお前より格段に優れているが」


 そう前置きしてから、彼は続けた。


「魔道具管理に関してはお前の方が上だ。これはお前にしかできない仕事だ」


 ヴィクター様から思いもよらないことを言われて、私は固まってしまった。


「だから、自分のことを出来損ないなどと言うな」

「……!」

「――お前は出来損ないなんかじゃない」


 その言葉があまりに嬉しくて、思わず笑ってしまう。

 まるで、じんわりとホットケーキに染み込んでいくはちみつのような言葉だった。


 今まで、自分が必要だと言われたことなんてなかったから。私にしかできないことがあるなんて、思ってもみなかったのだ。


「おい、にやにやしてないで、手を動かせ」

「はいっ!」


 ヴィクター様ってやっぱり、優しい人なんじゃないかと思う。

 だから、オリバーさんもヴィクター様に仕え続けているのだろう。


 私は短剣を磨きながら、ふと疑問に思った。


「……ところで、魔道具庫にも人はいないんですか」

「父の代はいたんだがな。辞めた」


 ヴィクター様が面倒そうに言う。


「よく回りましたね」

「俺は不眠だから、夜の間に終わらせている」

「な、なるほど」


 眠れないから、夜中に仕事をしているのか。

 それなら、確かに一人でも回せるかもしれない。


「まあ、辞めた理由も不眠で疲れた顔が怖いという理由だったんだけどな」


 私はヴィクター様をまじまじと見上げた。

 10年分の不眠が積み重なっているのだ。あまりに目の下のクマが酷い。


 確かに、怖く見えるかもしれない。

 けれど、さっき私にくれた言葉を思い出すと、むしろこの表情すら好ましく思えてくる。


「な、なんだ。そんなに見て」


 私がずいっと近付けば、ヴィクター様が居心地悪そうに視線を逸らした。


「そんなに怖いかなぁ?」


 私は首を傾げた。

 不健康そうな顔に常に張り付いた不機嫌な表情。言葉もトゲトゲしているし、第一印象は恐ろしかったけれど。


「私は怖いとは思いませんけどね」

「……そうか」


 それだけ言って、ヴィクター様はそっぽを向いた。



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