第2話:霧の収穫と砂漠の呼び声
ギルドの建物は、神聖国の首都エルドラントの中心に位置していた。石造りの壁に蔦が絡まり、入口の扉は重厚な木でできている。俺——影崎零——は、報酬の金貨を入れた袋を腰に下げ、仲間たちと一緒に中に入った。空気にはインクと紙の匂いが混じり、カウンターの向こうで受付嬢が微笑む。彼女は細い指で帳簿をめくり、俺たちの討伐証明——青白い魔力の結晶——を確認した。
「見事な仕事ね、零さん。紅蓮のワイバーンは村の脅威だったわ。報酬は約束通り、金貨50枚。次も期待してるわよ。」
彼女の言葉に、俺は軽く頭を下げた。隣でガルドが豪快に笑い、肩を叩く。ロランは穏やかに目を細め、手を組んで感謝の祈りをささやく。細かな動作——ガルドの拳が軽く握られ、緩む——が、彼の興奮を表していた。
ギルドの掲示板に目を移す。新しい依頼書が何枚か貼られていた。黄ばんだ紙に、太い筆で書かれた文字。俺は一番目立つものを引き抜いた。
『討伐依頼: 腐蝕のマンモス。
場所: 神聖国南部の平原。
詳細: 毒属性の巨獣。体長20メートル、牙から毒を噴射し、土地を腐食させる。村の農地を破壊中。報酬: 金貨80枚。証明: 魔力の霧の結晶。
依頼主: 南部領主。』
「これだ。デカいヤツみたいだな。」俺は依頼書を折り畳み、仲間たちに振り返った。ロランが眉を寄せ、ゆっくりと頷く。「毒属性か……私の祈りで耐性を付与できるが、零殿の敏捷が鍵になるだろう。」ガルドが拳を鳴らし、筋肉を膨張させてみせる。「俺が抑え込むぜ! あの巨体を、俺の拳で止めてやるよ。」
三人でギルドを出て、南部の平原へ向かった。馬車を借り、道中は森を抜け、開けた草原に出る。風が草を揺らし、空は青く広がっていた。馬車の揺れに合わせて、俺は剣の柄を軽く撫でる。転生以来、この世界の空気が体に馴染んできた。敏捷のステータスが、風のように体を軽くする。
平原の端に着くと、異変が目に入った。地面が黒く腐食し、植物が枯れ果てている。遠くに、巨影が見える。腐蝕のマンモス——山岳のような巨体、牙が毒棘のように尖り、毛皮が緑がかった毒の光沢を帯びている。高さ15メートル、体長20メートル。足を踏み下ろすたび、地面が震え、毒の霧が薄く立ち上る。
「奴だ。」俺は馬車から降り、影を意識する。ロランが馬車の陰から手を挙げ、祈りを始める。指を絡め、目を閉じ、唇が微かに動く。「聖なる守護よ、影を毒から護れ。」俺の影が淡く輝き、耐性を感じた。ガルドが低く構え、息を深く吸い込む。筋肉が張り、足を踏ん張る。「いくぜ、零!」
マンモスが俺たちに気づき、咆哮を上げた。牙から緑の毒液が滴り、地面に落ちて煙を上げる。巨体が突進してくる。俺は影跳躍を発動。足元の影が反発し、体が軽やかに浮上。虚空のワルツを始め、空中で体を捻る。風が髪を乱し、視界が高速で回転する。
ガルドが先陣を切り、マンモスの足元に飛び込む。巨漢の体が地面を蹴り、拳を振り上げる。衝撃音が響き、マンモスの前進が止まる。ガルドの筋肉が膨張し、汗が額を伝う。「抑えたぜ! 今だ、零!」
俺はマンモスの背中へ影を伸ばし、跳び移る。剣を抜き、毛皮を横薙ぎに斬る。刃が浅く入ると、切断面から緑の魔力の霧が噴き出した。霧が周囲を侵食し、地面が溶け始める。俺は敏捷を活かし、即座に後退。霧の熱が頰をかすめるが、耐性で耐える。
「まだ!」俺は連続斬撃を加える。幻影連撃を発動し、影の分身がマンモスの周りを舞う。斬るごとに霧が濃くなり、緑の渦が巻く。マンモスの動きが鈍り、毒棘が無駄に振られる。ロランが遠くからバフを重ね、手を振る動作で魔力を送る。「連携を!」
ガルドがマンモスの牙を掴み、力任せに引き倒そうとする。筋肉が限界まで張り、息が荒くなる。「おらぁ!」マンモスの体が傾き、俺の剣が弱点の首筋を狙う。斬撃を何度も積み重ね、霧が頂点に達する。緑の霧が爆発的に噴き出し、マンモスの巨体が震え、魔力の粒子となって崩壊。霧が虹のように輝き、平原に散らばる。中心から、緑がかった結晶が現れた。
息を吐き、俺は着地した。体に疲労が残るが、霧の粒子が俺の影に引き寄せられるのを感じた。頭の中に声が響く。
【新スキル取得: 霧吸収(Mist Absorption)。倒した魔獣の霧を吸収し、自身の力を強化せよ。初回: 毒耐性+20、敏捷+50。】
「これは……?」俺は影を眺め、緑の光が混じるのを見た。ロランが近づき、目を細めて結晶を拾う。「零殿、何か変化が?」ガルドが肩を回し、笑う。「おいおい、強くなったんじゃねえか?」
ギルドに戻り、依頼を完了。報酬を受け取りながら、掲示板に新しい依頼書が貼られるのを見た。隣国の砂漠王国から——火属性の巨大サンドワームの討伐。依頼主は王族で、報酬は破格。
「この世界は、神聖国だけじゃなく、大陸全体が脅威に晒されてるみたいだな。」俺は依頼書を指で叩き、仲間たちに振り返った。ロランが頷き、手を組む。「そうだね。旅立つ日が来るかも知れない。」ガルドが拳を握り、目を輝かせる。「大陸を回るぜ! もっとデカいヤツを狩ろうよ。」
影の力が、俺を駆り立てる。この異世界で、舞い狩る旅が始まる予感がした。
(第2話 終わり)




