第1話:影の目覚めと最初の依頼
薄暗い闇の中で、俺の意識がゆっくりと浮上してきた。頭がずきずきと痛む。まるで、激しいパルクールの練習後に地面に叩きつけられたような感覚だ。目を開けると、周囲は深い森の奥。木々が密集し、陽光が葉の隙間から細く差し込む。地面は柔らかな苔に覆われ、空気には土と湿気の匂いが満ちていた。
「ここ……どこだ?」
俺はゆっくりと体を起こした。手で地面を押すと、指先が少し沈み込む。いつものアスファルトの硬さじゃない。俺は、現代日本の街中でパルクールをしていたはずだ。屋上から屋上へ跳び移り、壁を駆け上がり……最後に、足を滑らせて転落した記憶がよみがえる。あの瞬間、風が耳元を切り裂き、地面が迫ってくる恐怖。
「死んだ……のか?」
しかし、体は無傷だ。服は変わっていない。黒いTシャツとジーンズ、足元はスニーカー。だが、何かが違う。体が軽い。まるで、重力が半分になったように。試しに立ち上がり、軽くジャンプしてみる。体がふわりと浮かび、着地する瞬間、足元に影が不自然に濃く伸びるのを感じた。
「これは……?」
頭の中に、声が響いた。穏やかで、荘厳な響き。
【歓迎する、転生者よ。汝は異世界『エルドラ』に召喚された。この世界は、巨大なる魔獣の脅威に晒されている。汝に与えるは、影を操る力。敏捷性を極め、巨獣を狩れ。】
声が消えると、視界に青白い文字が浮かんだ。まるでゲームのステータス画面のように。
【名前: 影崎 零(転生前: 佐藤 太郎)
職業: 影の狩人
スキル:
• 影舞(Shadow Waltz): 影を操り、敏捷性を極限まで高める。基本形: 影跳躍(Shadow Leap)。ステータス: 敏捷 999(上限突破)、力 50、耐久 70、魔力 100。】
「影舞……? 敏捷999って、チート級じゃん。」
俺は思わず笑みがこぼれた。パルクールで鍛えた体が、さらに強化された感覚。試しに、近くの木に駆け寄り、影を意識する。足元の影が伸び、反発力のように体を押し上げる。まるで、進撃の巨人の立体機動装置みたいに、木の幹を駆け上がり、枝から枝へ跳び移る。風が頰を撫で、視界が高速で流れる。着地した瞬間、体が軽やかに地面に沈み、影が収束する。
「すげえ……これなら、どんな壁も越えられる。」
それからおれは近くの村に辿り着いた。そこで、ハンターギルドを見つけたんだ。古びた木造の建物、入口に掲示板があって、紙の依頼書が無造作に貼られていた。
『討伐依頼: 紅蓮のワイバーン。
場所: 神聖国の東部森林。
詳細: 村を脅かす火属性の巨獣。翼から炎を吐き、森を焼き払う。報酬: 金貨50枚。証明: 魔力の霧の結晶。
依頼主: 村長。』
ギルドの受付嬢——若い女性で、穏やかな笑みを浮かべた——が、俺に説明してくれた。「新入りさん? この世界は巨大魔獣が多いの。神聖国は聖なる結界で守られているけど、外縁部は危ないわ。あなたみたいな敏捷タイプなら、ぴったりかもね。」
俺は即座に依頼書を引き抜き、受注した。仲間もそこで出会った。神父のロラン——白髪の優しげな老人で、祈りのようなバフ魔法を使う。そして、モンクのガルド——筋骨隆々の巨漢で、拳で岩を砕く脳筋タイプ。二人とも、ギルドの常連で、俺の影の力に興味を持ったらしい。
「零殿、君の動きは神業だ。共に狩ろう。」ロランが穏やかに手を差し伸べ、ガルドが豪快に肩を叩いた。
今、森の中で、巨獣が近づく。俺は仲間と合流する合図——影を少し伸ばして信号を送る。ロランが木陰から現れ、手を組んで祈る。穏やかな動作で、指を絡め、目を閉じる。「聖なる光よ、影を強化せよ。」俺の影が濃くなり、敏捷がさらに上がる感覚。
ガルドが低く構え、拳を握りしめ、息を吐く。「おい、零! 俺が抑えるぜ!」彼の筋肉が膨張し、巨獣の足元に突進。巨漢の体が地面を蹴り、土煙を上げてぶつかる。巨獣の足が止まり、ガルドの拳が叩き込まれる。低く響く衝撃音。
「今だ!」
俺は影跳躍を発動。足元の影が反発し、体が急上昇。巨獣の翼を足場に跳び移り、虚空のワルツを始める。体を優雅に捻り、空中で回転。剣を抜き、横薙ぎに振るう。刃が翼の付け根を浅く斬ると、切断面から赤い魔力の霧が炎のように噴き出した。霧が熱を帯び、周囲の空気を歪める。巨獣が咆哮を上げ、体を振り回すが、俺の敏捷で回避。霧の噴出が続き、巨獣の動きが鈍くなる。
「まだ!」俺は連続で斬撃を加える。幻影連撃を発動し、影の分身が現れ、巨獣の周りを舞う。斬るごとに霧が濃くなり、赤い炎が渦を巻く。ガルドが下から拳を叩き込み、ロランがバフを重ねる。「連携だ!」ガルドの声が響き、俺の剣が首筋を狙う。
斬撃を何度も積み重ね、霧が頂点に達する。巨獣の体が震え、魔力の粒子となって崩壊。赤い霧が虹のように輝き、森に散らばる。倒れた巨獣の中心から、青白い結晶が現れた。討伐証明。
息を吐き、俺は着地した。汗が額を伝うが、達成感が体を満たす。ロランが近づき、穏やかに手を差し伸べる。「見事だったよ、零殿。」ガルドが笑い、肩を叩く。「次はもっとデカいのを狩ろうぜ!」
ギルドに戻り、依頼書を提出。報酬を受け取りながら、俺は思う。この世界は巨大魔獣に怯えている。神聖国を守り、大陸を旅する日が来るかも知れない。影の力で、舞い狩る——それが俺の新しい人生だ。
(第1話 終わり)




