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白い結婚だと言われたので、推し活に全振りしたら夫と愛人が崩壊した話

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12月17日公開予定

『婚約破棄? 喜んで♡相談女と元婚約者の末路』

2000文字ざまぁショートストーリー

「これは白い結婚だ、君を抱くつもりはない」


結婚初夜の寝所で夫アリステルがそう宣言した瞬間、私は内心で両拳を突き上げた。


「……あ、ありがとうございます——!」


(神よありがとう! 彼、イケメンだけどタイプじゃないし! 子作りキャンセルとか最高の待遇じゃん!)


アリステルは驚いたように瞬き、薄く笑う。


「……遠慮がないな。いや、それでいい。互いに自由にしよう」


(互いに自由…!? 神なの?)


この結婚は、彼の領地の鉱山と、うちの領地の運送路を一本化するためのもの。

形だけでも夫婦でいなければならず、離縁など論外。未来に絶望していたというのに――

まさかこんな甘いご褒美が待っているなんて。


「わかりました! どうぞ私の事はお気になさらないでください! 私は私の部屋で休みますので!」


そう言って、私は自室へと引っ込んだ。


そして翌朝。


「奥方、朝の挨拶を——」


「おでかけ行ってきまーす!」


侍女たちは口を開けたまま固まる。

だが私は馬車に飛び乗り、鼻歌で領地へ繰り出した。


(家にいない。夫の愛人に屋敷を譲る? なんて気が利く私!)


初めて歩く夫の領地。

市場を散策していると、家具の工房が目に入った。


(あの部屋、インテリア微妙すぎ。お小遣いで模様替えしちゃお♡ あら、この家具素敵……!!)


そこにいたのは——


鍛えられた腕、黙々と木を削る真剣な横顔。

落ちた髪が光を掠めるたび、胸がチリッと弾けた。


(ウホッ……いい男……!)


彼はふと気づき、こちらを見る。


「奥方様、木屑付いてますよ」


(声まで良いじゃん!)


真剣な顔で仕事する姿が素敵すぎて、そのまま魅入ってしまった。

だけど、時間は無限なので何も問題はなかった。


一方その頃、屋敷では。


「なぜ私が帳簿を? どうして茶会に? これ、奥方の仕事なのでは!?」


愛人ルシアが叫び、侍女が震える声で言う。


「あ、奥方様が……ルシア様にしていただいてと……」


「はあ!? 奥方の仕事を妾の私が!?」


ルシアは青ざめた。


夕方、私が帰宅すると、ルシアが血走った目で迎えに来た。


「奥方! やっと戻られましたか。もう大変で——」


「頑張って! 真の奥方はあなたなのよ! 旦那様もお喜びになるわ!」


私は笑顔で押し付け、部屋に逃げ込んだ。

だって私それどころじゃないし。


「奥方様、また例の工房へ行かれるのですか?」


「そうなのよ! 凄く腕のいい職人がいるの♡」


あの日以来、私は毎日工房に向かっている。


——実は私には前世の記憶がある。

前の人生でも推し活に財と精神と時間を捧げていたのだ。


私は素材代はもちろん、

新しい工具や職人の雇用費まで肩代わりした。


前世で培った営業経験も総動員し、

夜会では試作品をわざと中央の台座に置き、

茶会では「これ、私の秘蔵の工房よ」と囁いて興味を煽った。


『奥方様の紹介の工房のお品、

 侯爵夫人が十脚も買われたそうですわ!』


『奥方様が推した瞬間、

 市場で品切れになったとか!』


「ありがとうございます♡」

(ほほほ。社畜で鍛えたマーケティング力が合わされば、推しの繁栄など造作もないわ!)


工房は瞬く間に大繁盛。

雇い手が増え、商人が流れ込み、領地に金と活気が回り始めた。

それで領民が感謝を伝えに屋敷へ来るほどになった。


(推し活に全て時間を捧げるなんてありがたすぎ…愛人様ありがとう!)


一方その頃、ルシアは——


「……奥方の名で寄付?

 ……また茶会の段取り?

 ……孤児院の視察?」


日々削られていた。


「奥方様の仕事をなぜ私が?」


私は満面の笑みで答える。


「何言ってるの? 真の奥方は……以下略」


その頃からだろうか、ルシアは嫌がらせをしてきた。

侍女を使って陰口を焚きつけたり、

私の不在中に家具の配置を変えて混乱させたり。

でも私にはほぼ影響なし。

殆ど外出していたので気づきもしなかった。


そうこうしていると、領地では噂が広がった。


「奥方様は領地の救世主よ!」


「社交界でも人気なんですって!」


「奥方様の推し工房の商品が品切れだぞ!」


アリステルは領民の反応を聞きながら呟いた。


「……どういう事だ?」


「俺が無視していたはずの妻が……

 なんで領民の支持なんか得てるんだ……?」


彼の困惑は小さな苛立ちへ進化していく。


さらに追撃イベント。工房の祭りで——


「この繁栄は奥方様のおかげです!」


「奥方様——!」


花束、拍手、祈祷、贈り物。

視線のすべてが私へ向けられていた。


アリステルの視線が鋭く揺れた。


「……俺より人気がある? 何故だ……」


対してルシアは完全崩壊した。


「もう嫌っ! 私は愛されているはずなのに、

 なんで雑務と苦労ばかりなの!?」


泣きながら逃走したらしいが、私は気づかなかった。

推し活が忙しかったので。


ある日、帰宅した私を廊下でアリステルが待っていた。

珍しく真剣な顔だ。


「戻ってこい。

 奥方として——俺の横に立て」


(……何言ってんのこいつ)


「はぁ?」


私は虚無の目で首を傾げた。


「頼む。戻ってきて……ください」


夫、まさかの敬語。


私は肩をすくめ、工房の方向を見る。


「工房の新作の納期があるの。そっち優先だから」


彼の胸が、しくっと音を立てる。


そんな夫を尻目に、私は晴れやかに笑って歩き出した。

その笑顔が残像のように廊下へ漂い、

彼はしばらく動けなかった。


(白い結婚最高〜♪)


その背を、寡黙な職人ライルが見送っていた。

木屑の付いた手の中に、私から贈った新しい工具が光っている。


「……レイナ様は本当に、風のような人だ」


どこか嬉しそうに、彼は呟いた。


——これが、相手がいつの間にか崩壊していった私の話である。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


もし「こういう短めテンポの物語、好き!」と感じていただけたら、ぜひ反応やコメントで教えてください。

今後の方針の参考にさせていただきますし、

反応をいただけると、続編や新作を書く励みにもなりますので、よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
戻ってこい奥方として 奥方は貴人の妻に対しての敬称ですので、自分の妻には使わないかと。普通に妻として、で良いのでは
家の廊下になんで手に木屑つけて工具持った推し職人がいるの?
政略結婚が避けられないなら「白い結婚で互いに好きにする」が一番無難な落としどころだと思うが、何故か愛されると思うな!系の勘違い発言したり使用人ぐるみで冷遇する馬鹿夫が多いなろうの理不尽。 ずっとお飾り…
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