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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十章

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第三話 誤算


 思った通り、仔猫の傷は浅いものだったらしい。五日も経った頃からそこらを歩き回っている。

 最初は自力で飲めなかった乳も、今では皿から飲めるようになった。


 かいがいしく世話をしてくれる蓮を母とでも勘違いしたか、えらくなついていて、ずっとあとをついて回っている。

 なつかれればやはり可愛いのだろう。世話をする手つきに、より愛しさが加わるようになった。仔猫を見つめる優しい眼差しを見れば、月龍も嬉しくなる。


 仔猫と接しているとき、蓮の空気は柔らかくなっていた。この分であれば、すぐにも笑顔が戻るに違いない。

 ぎこちない作り笑いではなく、あの暖かな微笑みを見られるのではないかと期待していた。


 そして、今日。月龍が帰宅したとき、蓮はいつもの(こしかけ)に座って、膝に仔猫を乗せていた。

 背を撫でる蓮の手にうっとりと目を細めている。みゃおみゃおと鳴く仔猫を見つめる蓮の口元にも、かすかな微笑が浮いていた。


「いい子ね、マオミィ。本当に、可愛い……」


 仔猫に語りかけている優しい声と表情に、月龍は心臓が激しく高鳴るのを感じていた。


 蓮が笑っていた。もう随分と見ていなかった穏やかな笑みに、舞い上がる。

 だが、ふと苦笑した。ようやく仔猫に名前をつけたらしいが――猫咪(マオミー)(ねこちゃん)とは。

 そのままではないかと呆れるのと同時、ひどく蓮らしい気もした。ついくすくすと笑いが洩れる。


 笑い声に気づいたのか。はっと振り向き、月龍の姿を認めた蓮が、仔猫を抱き上げながら立ち上がる。


「ごめんなさい、私、気づかなくて」


 慌てた仕草、上ずった声で言っているうちに、顔から笑みが消える。頬を強張らせて一礼すると、マオミィと名づけたらしい仔猫を、籠の簡易寝床に置いた。

 あたたかな膝から降ろされたせいか、マオミィが恨みがましい目つきで月龍を見ている――ような気がした。

マオミィの視線を頬で受け止め、月龍は蓮を睨む。


 蓮の表情や態度は軟化していた。しかしそれは、マオミィに対してのみだった。

 今浮かべていた笑顔も、月龍に対してのものではない。マオミィへの信愛だった。月龍には相変わらず、怯えた眼差しを向けている。


 それでも、以前よりはまだいいと思ってはいた。悲しげな様子は、明らかに減っている。

 しかし、マオミィが蓮を癒してくれると期待していたはずなのに、そのおこぼれが自分には回ってこないのを知ると、急激に嫌悪感を覚えるようになってきたのも事実だった。


 否、自分が誠心誠意を尽くしても否定されるのに、あっさりと蓮の心に入ってしまったマオミィに対して、言いようのない悔しさを感じる。


 猫に嫉妬とはばからしい。

 思う傍ら、蓮の膝の上に乗って背を撫でてもらっていたマオミィが、ふと羨ましくなった。

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