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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第九章

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第八話 理解


 趙靖の様子は亮によく似ていたけれど、口の端ににじむ笑みには、彼よりももっと柔和な雰囲気があった。


「正直な話をすれば、たしかに不安はあった」


 月龍を見たあと、ちらりと蓮へと視線を流す。


「蓮の前で言うのも躊躇うが――貴官のよくない評判は私の耳にも入っている」


 上官たちに対する態度、生活様式、女関係の話――蓮の目を気にするということは、主に後者の理由だろう。

 心当たりは、ありすぎる。


「初心な蓮が悪い男に騙されているのではないかと、な」


 その危惧はおそらく、完全な過ちとは言えない。無論騙しているつもりなどはないが、蓮にとって「悪い男」であることは間違いないのだから。


「縁談を進めようとしているのは亮殿下ばかり。貴官は宮で私と会っても、声をかけてもくれん」


 身に覚えがあった。宮殿で近くを通りかかったことがある。挨拶をと思わないわけではなかったが、下賤の者がと趙靖の目が言っていたようで、気後れした。

 趙靖にそのつもりはなかったということか。むしろ、声をかけてくることを期待して月龍を見ていただけなのかもしれない。


「貴官の武才は疑うべくもない。人柄も――まぁ、悪評を聞きもするが、あの亮殿下が信頼を寄せる相手であれば、間違いはあるまい。ただ、貴官の気持ちもわからない」


 はっ、と短く吐き出されたため息は、演技がかって見えた。


「婚姻に政略が絡むのは仕方あるまい。それでも多少は想いをかけてもらいたいと思うのが親心だろう?」


 正確には親ではないがな。つけ加えた後、趙靖は笑みを刻む。


「先日の私の話に、貴官はまともに顔色を変えて動揺した。しかも出した答えが、蓮のために必ず生きて帰る、とはな。この一言が引き出せただけで、重畳だ」


 まるで邪気のない子供のような笑顔は、壮年と呼ぶべき男のものではない。以前の蓮を思わせる、明るさがあった。


「けれど――私の出自に関しては」


 これがずっと、怖くて苦手意識を抱いていた人の正体なのか。信じられない思いが、おそらくは余計な言葉を吐き出させる。


「出自? ――ああ」


 そのようなことか、とでも言いたげに、趙靖は自分の顎をそっと撫でる。


「貴官自身に責のないことで責めて、なにになる? 地位に関しても、まぁ私が殿下に言及したのは言い訳にすぎんしな」


 ごくあっさりと返されて、全身から力が抜けた。


 亮の言った通りだった、なにもかも。

 あの蓮の兄なのだぞ、気難しい御仁ではない。地位の低さは言い訳で、月龍の為人を見極めたいと思っているのだろう、と。


 月龍はただ、亮の言葉を信じればよかっただけだったのだ。

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