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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第九章

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第七話 承諾

 月龍の中で、婚姻はすでに最重要事項ではない。重要なのは、蓮が傍に居てくれることだ。逃がさないための手段でしかない。

 たとえ結婚できずとも、蓮が横に居てくれるのならば構わなかった。だが、将来のない男の傍に、公主をいつまでも置いているわけにはいかない。


 縁談を正式に持ち出した以上、必ず認めてもらわなければならなくなったのだ。


 もし許しを得られなければ、どうするべきか。月龍はすでに肚を決めていた。

 蓮に言ったように、皆を殺すつもりはない。できるわけもない。

 ただ蓮を攫って、他国に逃げるだけだ。


 かえってその方がいいのだろうか。そうしたら周囲はすべて見知らぬ人間になる。

 その環境であれば、蓮も月龍を頼ってくれるかもしれない。


「お兄さま……!」


 悲鳴にも似た呼びかけを発すると同時、蓮は榻から跳び退いた。


「お願いします、どうか――どうか、私たちを一緒にさせてください」


 平伏しての懇願など、兄妹の間で行われるものだろうか。男同士であれば兄弟とはいえ主従関係にも近く、ありえるはずだ。

 けれど、趙靖は年の離れた妹を溺愛している。

 また、蓮にあった相手かまわず飛びつく癖は、亮だけでなく兄に対しての接し方のせいだとも聞いていた。


 ならばこのような懇願はむしろ、趙靖に違和感を覚えさせるだけではないのか。


 ――否、そうやって蓮自身の異常を、兄に伝えようとしているのかもしれない。

 邪推するも一瞬、考え事などしている場合ではないと気づく。

 蓮が平伏しているのだ。月龍だけがのうのうと座っていていいはずがない。


「何卒、どうか――」


 叩頭して、短い嘆願の言葉を発する。

 実際は、さほどではないのかもしれない。けれど落ちた沈黙は、無限にも思える長さに感じられた。

 ふぅ、と趙靖がため息を洩らす。


「蓮、頭など下げる必要はない。邵殿もだ」


 頭を下げられても許すつもりなど毛頭ない――続けられる台詞が予想できて、吐き気すら覚えるほどの痛みが胃を襲う。


「――否、月龍殿と呼ばせてもらった方がいいのか」


 月龍。(あざな)を呼ばれて、固く閉じていた目を開く。未だ頭を上げられていないので、ただ愕然と見開いた目で床を見つめていた。

 姓名ではなく、言い換えてまで字を口にしたのは、月龍を認めてくれるという意味だろうか。


「それでは、趙公――」

「趙公」


 床を見つめたまま口を開いた月龍を遮ったのは、趙靖の呆れた口調だった。


「そう他人行儀に呼ばれるのは、好きではないな。せっかく弟ができると喜んでいるのに、水を差される気分だ」


 弟――今、趙靖は確かにそう言った。声音は低くあっても、先ほどまでのような圧はない。

 口調も、随分と柔らかくなっていた。ふざけた物言いが、どこか亮を思い出させる。


「――元譲(ゲンジョウ)、様」


 意を決して、趙靖の字を呼ぶ。

 以前、さらりとその名を口にした亮に対して、嫉妬じみた羨望を抱いたことがあった。仮に蓮と婚姻を結ぶことになっても、そう親しげに呼びかけるなどないと思っていたというのに。

 おそるおそる、顔を上げる。そこで見た趙靖は、穏やかに目を細め、口角を上げていた。


 ――笑っている。


「うん?」


 満足気な顔だった。大人が幼子を促すような返事に、背を押される。


「それでは――お許しいただけるのですか」

「反対する理由がどこにある?」


 片眉を上げた、呆れた表情。

 先ほどまでの威厳ある態度が作りものなら、偽りを脱いだ趙靖は、とても亮に似ていた。

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