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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第九章

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第六話 会談


 面会したい旨を伝えてほしい――そう伝えたのは、三日前だった。


 趙靖は外戚であるだけでなく、廷尉の位にある。要職にある身では、早々に時間を作ることは難しい。

 そのはずなのに、わずか三日でこうして面会が成ったのは、趙靖もこの件を問題視している証だった。


 勧められるまま、榻に座る。隣りには蓮がいて、趙靖は卓を挟んだ向かいに腰かけていた。


 年は蓮より十五ほど上と聞く。早くに他界した両親に代わり面倒を見ていたからか、兄と言うよりも父親に近い感覚だろうと亮が言っていた。

 血筋のせいか、蓮や亮ほどではないけれど色素が少し薄い。また、年齢も実際よりは随分と若く見えた。

 凛と伸ばした背や体格は、文官とは思えぬほどにがっしりとしている。


 けれど月龍を委縮させるのは、なによりその鋭い眼光。亮にも似た中性的な美丈夫だが、威圧感は比ではない。遠目で見た王よりもよほど、威厳があるように思えてならなかった。


 顔を直視することもできない。視線を趙靖の喉元に固定したまま、ぽつりぽつりと、結婚の許しを得るために来た旨を伝える。


「――貴官の言いたいことはわかった」


 細面には似合わぬ、低い声だった。

 この声も、恐怖を助長する。肝が凍りついたかのような寒気に襲われていた。

 軽く目を伏せたまま、隣りにいる蓮の様子を盗み見る。顔を見られるほど横を向くことはできない。見えたのは、膝の上でしっかりと握られた拳が、小さく震えている様だけだった。


 ――口添えをしてくれる様子は、ない。


「だが、以前私が提示した問題への答えはなかったように思うが?」


 当然の質問だった。そう返されるのはわかりきっていたのに、口ごもる。


「問題、ですか……?」


 あのときのやりとりを、蓮は知らない。もしかしたら趙靖が伝えているかとも思ったが、不思議そうに問う姿を見れば、聞かされていないのは明らかだった。


 一層のこと、言ってくれていればよかった。そうしたら月龍が別れを決意した経緯を蓮に知ってもらえる。

 否、月龍自身からでも説明していればよかったのか。

 思って、すぐに否定する。月龍が話したのでは、蓮はきっと信じてくれない。


「――帰ります」


 短い一言を口にするだけで、声が震えた。


「必ず、生きて戻ります。――蓮のために」


 戦場から生きて帰ることが、果たして蓮のためになるかは、今となっては甚だ疑問ではあるが。


 むしろ、さっさと戦死した方が蓮のためになるのだろうか。生きている限り、彼女を手放すつもりのない月龍から逃れる方法は、他にはないのだから。


 否、本当はいくらでも方法はある。簡単なのはこの場で、趙靖相手にすべてを暴露することだ。


 侮辱されたこと、恫喝と脅迫、暴力をもって犯されたこと――どれ一つをとっても結婚を許してもらえないばかりか、月龍の命すら危うくなるほどの罪だった。


「なんの対策にもなっておらんな」


 俯く月龍の頭上に降ってきたのは、呆れを含んだ声だった。

 考えなしの無骨者――言外の声すら聞こえた気がした。

 そのような愚者に妹はやれぬ。そう続けられることは必然だった。

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