表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/141

第十七話 蹂躙


 深く貫かれながら、なおも蓮は手足をばたつかせて逃げようともがく。

 その抵抗がさすがに疎ましくなってきた。蓮の両手首を掴まえ、さらに奥深いところまで突き上げる。


「いや……放して、やめて……っ!」


 半狂乱で泣き叫ぶ姿に、奇妙な感慨が浮かぶ。心が痛まないわけではないのに、言い知れぬ興奮が胸を満たしているのを、否定できなかった。


 ――否、これは蓮の「遊び」だったか。嫌がる素振りを見せてはいるが、そもそも誘ってきたのは蓮だ。月龍が拒否せず、初めから応じていたとしてもきっと、難癖をつけてはこうやって抵抗していたのだろう。


 そうか。蓮は月龍の暴力性に惹かれたのかもしれない。


 思い返せば、初めて体を重ねたときも力ずくで奪った。それが蓮の中では基準になったのだろう。

 ようやく得心した。だからこそ優しく包み込んでくれる亮ではなく、月龍を選んだ。

 ならば蓮に触れようともしなくなった月龍では、役に立たない。別れたくもなるはずだ。

 ずっと、蓮が体で月龍を引き留めようとしているのだと思っていた。まさかその逆だったとは思いもよらぬことだった。


「――こうしてほしかったのか」


 蓮を深く抱き竦め、耳元に囁きかける。口元に皮肉が閃いているのは自覚済みだった。

 おそらく、正気ではなかったのだろう。でなければ髪を振り乱して泣く蓮を、正視できたはずがない。

 悲鳴を上げ、顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らす蓮の姿も、身を襲う悦楽も、薄紙を隔てた何処か遠い世界の出来事のようだった。


 幾度蓮の中に吐き出したことか。なのに、どうしても満足感を得ることができなかった。

 おそらく、紫玉のときと同じだ。体だけが満たされても、心は空虚なまま。より一層、虚しさが高まってくる。


 真の絶頂感を諦めて蓮の身体から離れたのは、すでに空が白み始めた頃だった。

 体と心が苦痛に耐えきれなかったのだろう。腕の中で、蓮は幾度も失神した。その度に揺り起こし、無理矢理相手を続けさせた。


 最初の内こそ抵抗していた蓮も、気絶をくり返すうちに暴れることはおろか、泣き声を上げる力すら失っていた。

 月龍が離れたときも、両手両足を投げ出したままだった。床に落ちていた夜着を拾い、蓮の上にかけてやる。


 なんの反応もなかった。途中で脱ぎ捨てた衣服を、のろのろと身に纏う月龍の姿を見ているのだろうか。視界に映っているはずなのに、虚ろな瞳から音もなく涙を流し続けている。


 冷たい床に転がったまま、身動ぎすらしない。まるで打ち捨てられた人形だった。


 ため息が零れる。泣き声にも似た震える呼気が、他人事のように自分の耳に聞こえた。


「これでいいのか」


 膝から力が抜けた。横たわる蓮の傍らで項垂れ、両の掌で顔を覆う。


「これで――これから先もずっと、傍に居てくれるのか」


 蓮は否定も肯定もしない。そもそも月龍の声が耳に届いているのかも怪しかった。涙でぼやける眼差しを、宙でさまよわせている。


 もう、おれを見てもくれないのか。


 呼吸さえままならぬほど、胸が痛い。今更ながら、己の過ちに気づかずにはいられなかった。


 このような行為を、蓮が望むわけがないのだ。自分の愚劣さを思い知る。

 狂気と理性の間で感情を持て余し、蓮だけではなく、自分の望みすら見失い始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ