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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第八章

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第十六話 絶望


「私と、別れてください」


 単純な言葉のはずなのに、なぜか即座には意味が理解できない。


 え、と間の抜けた声が洩れる。浮きかけていた笑みが、瞬時に凍り付いた。硬直した頬が、ひくりと口元を引きつらせる。

 問い返しに、蓮は表情を変えない。多少のためらいが瞳に見えるが、沈重な面持ちで月龍をまっすぐに見上げている。


 現実逃避だとは、すぐに気づかされた。泣き笑いの顔になる。見つめようと思うのに、焦点をとらえきれず、瞳が左右に揺れた。


「それは――突き飛ばしたからか? 痛い思いをさせたから、もう嫌になったか。ならば謝る。二度と乱暴もしない。だから蓮――」

「そうではなくて」


 そのようなことは言わないで。懇願することすら許してもらえず、蓮は静かに息を吐く。


「もういいの。お芝居は、必要ありません」

「――芝居?」

「本当は、私に嫌われたいのでしょうけど……ごめんなさい。どうしても、嫌いになれないの」


 蓮は一体、なにを言っているのだろう。今度こそ意味がわからず、愕然とする。

 月龍が蓮に嫌われたがっているなど、あり得ない。なにより、嫌いになれないのに別れたいとは、どういうことか。


「ご安心なさって。前に、亮さまに秋怨の念を吹きこんでやる、なんて申し上げましたけど、本気ではありませんでしたの。そう言えばあなたが傍に置いてくれると――ただの、脅し文句だったの」


 蓮の口の端には、薄く笑みが滲んでいる。ただ、悲し気に歪んだ眉と濡れた瞳が、笑顔と呼べるものではなくしていた。


「でも、触れることすら厭うていらっしゃるのなら――これ以上、嫌われたくない。だから」


 その前に、別れたい。

 小さくつけ加える声は、何処か遠くに聞こえた。


「――違う」


 触れたくないのではない。触れられないのだ。

 これ以上嫌われたくない、それは月龍の台詞ではないのか。


 そうか、蓮は月龍に責任を負わせようとしているのだ。別れたいのは自分ではなく月龍で、その望みを叶えてやるという体裁をとりたいのだろう。


 何故? わからない。もしかしたら亮が関係しているのだろうか。

 月龍に捨てられそうな自分――そう演出することで、亮に拾われやすくなる。

 蓮が本当に愛しているのは、やはり亮ではないのか。


 ――当然だ。亮と比べて、誰がお前を選ぶ?


 頭の中に聞こえたのは、悪意の囁きだった。


「わかった」


 呟くのと同時、手を伸ばす。腕を掴んで、力任せに引き寄せた。


「――月龍――?」


 均衡を崩し、胸元に倒れ込んできた蓮を抱き竦める。

 不安そうな声だった。だがそれも、すぐに苦鳴に変わる。加減なく締めつける力に耐えきれず、蓮の細い骨が異様な音を立てて軋んでいた。


「抱かないから別れるというなら、抱いてやる」


 言い訳を消してやろう。そうすればまた変わらず、傍に居てくれるはずだ。


 無造作に髪を一房掴む。下へ引き、反動で顔を上げた蓮の唇を口でふさいだ。

 力ずくで奪えば、体だけは手に入る。どうせ心は得られないのならばもう、体だけで充分だ。


 体と身分が目当てだと思うなら、勝手に思っていればいい。


 蓮の胸に手を伸ばす。頼りない柔らかさが、乱暴に触れれば壊れてしまうのではないかと錯覚させた。

 だからこそずっと、優しく触れてきたのだ。

 けれどそれではいけないのだろう。そっと撫でるも一瞬、強く握りしめる。


「――!」


 痛かったのだろうか。蓮が悲鳴を上げようとするも、口をふさがれた状態ではくぐもった呻きに過ぎなかった。

 月龍の胸を押し、幾度も拳を振り上げては肩や顔までも打ちつけてくる。

 ささやかな抵抗が、むしろ可愛かった。押さえつけることもせず、好きに打たせてやる。


 力を入れるまでもない。ただ体重を預けるだけで、蓮を簡単に床へと押し倒すことができた。

 身をのけ反らせ、なんとか逃れようともがく蓮の姿が、不思議だった。こうしなければ別れると言ったのは彼女のはずなのに、何故これほどまでに嫌がるのだろう。


 なにを、被害者面で泣いているのか。


 蓮の太腿に手をかけ、強引に押し開くとそこに自分の体を埋め込んだ。

 迸った絶叫に、眉も歪めない。ただ狂気に任せて、腰を振るうだけだった。

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