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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第八章

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第十五話 決意


 もう二度と見たくないと思っていた蓮の涙を目に、心臓が鷲掴みにされたような痛みを訴えかけてくる。


「なにかあったのか」


 尋常ならざる状況に、さすがの月龍でも気がついた。


「なにが不安だ。おれがまたなにか、誤解させてしまったのか」

「誤解では――ありませんもの」

「え?」


 答えた蓮の声は小さくて、聞き取れなかった。問い返すも、彼女はもう答えない。代わりに、大きく開いた口で月龍を銜えこんだ。


「――!?」


 びくんと身が竦む。鎮まりかけた衝動に、快感が働きかけては意識を揺らがせた。


「だめだ、蓮。必要ないと言った。おれは――」


 体の関係がなくとも、愛している。

 言葉を最後まで口にすることはできなかった。代わりにただ、低く呻く声が洩れる。


 今すぐにでも引き離すべきだ。理性が頭の中で叫ぶ。泣きながら、体でつなぎとめておこうとしている蓮を抱けるはずがない。ましてこのまま果てては、ただ処理をさせただけに思われるのではないか。


 このような強行に到ったには、意味があるはずだ。ならば理由を知りたい。不安の種を取り除いて、今度こそ気持ちを信じてほしい。


 けれど、だめだと思うほどに背徳感が強い誘惑となる。このまま欲に従えば、楽になれることを知っていた。

 ――そう、知っているのだ。蓮は月龍を疑っている。それでもなお傍に居たいと望むほどに、愛してくれていることを。


 発作的に、蓮の髪を掴む。


「やめてくれ、もう……我慢できなくなる。君を――」


 傷つけたくない。喉の奥で、声が詰まる。

 言葉の合間に呻くのではなく、すでに喘ぐ隙間をぬってようやく言を紡いでいる有様だった。


 楽になりたい。蓮を泣かせたくない。

 二つの感情の狭間で揺れ動く。


 心を嘲笑うように、体は従順に蓮に反応していた。髪に差し込まれた月龍の手も気にならぬ風に、蓮は頭を前後させる。合わせて響く濡れた音と快感に、気が遠くなりそうだった。

 まともに呼吸もできぬほど、息が荒くなる。

 苛立ちと不安、そして焦りと快感。


 相反する感覚に迷い、悩み――そして一瞬、頭の中が真っ白になった。


「やめろ――!」


 蓮の髪を掴み、引きずるようにして後ろへと突き飛ばす。

 突き飛ばされた蓮は、どん、と背中から卓の脚にぶつかった。反動で月龍も(こしかけ)から転げ落ちたが、強すぎる焦燥感のために痛みも感じない。床に座りこんだまま、乱された夜着の前をかき合わせる。


 落ち着け、冷静になれ――きつく、自分に言い聞かせた。

 腕を腕で抱きしめ、固く目を閉じたまま自分の胸に顎をつけ、体の震えを止めようと努力する。


 まずは身を包んでいた快楽が遠ざかり、次いで煩悩と焦燥が後を追った。

 ほう、と息を吐くも一瞬、血の気が引く。我に返ると同時、蓮を勢いよく振り返った。


「すまない、蓮」


 床の上を這うように近づき、謝罪する声が上ずっていた。

 突き飛ばしただけではない、引き離すときには蓮の髪を掴んでいた。痛みがあって、当然である。

 現に蓮は、背を丸めて蹲ったままだ。

 自責に、胸も痛む。蓮の両肩を掴み、心配をのせて顔を覗きこんだ。


「頭は打たなかったか? すまない、本当に。このようなつもりではなかった。気が動転していて――」

「月龍――お願いが、あります」


 焦りのため、常にない早口でする月龍の謝罪と言い訳を、蓮が遮る。

 顔に痛みが見えないことでまず、安堵した。次に浮かんだのは、自分勝手な希望だった。


 疑われ、信用を失ったのだから仕方がないのだけれど、蓮が甘えてくれなくなったことが寂しかった。

 その蓮が、あえて頼みがあると断った。置かれた状況も忘れ、期待が込み上がってくる。


「無論だ。おれにできることなら――」

「私と、別れてください」


 なんでも言ってくれ。最後まで続けさせず、蓮が決意の声を上げた。

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