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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第八章

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第十二話 罠


 その日、蓮は満面の笑みで月龍を迎えてくれた。おかえりなさいませと、月龍の上着に手をかける。

 蓮の様子に、月龍は安堵した。嬋玉(センギョク)が「もう会うな」と言えば、蓮はそれに従うだろう。わかっているから、まずは邸で待ってくれていたことが嬉しい。

 それだけではなく、蓮はいつもよりも楽しげに見えた。幼い頃から慕う嬋玉に会えて、やはり嬉しかったのか。


 否、もしかしたら月龍とのことを相談したのかもしれない。そこで嬋玉は、予想に反して蓮を宥めてくれたのではないか。

 蓮と付き合うようになって、一度、嬋玉に呼び出されたことがある。そのとき月龍は舞い上がっていたから、蓮への想いは筒抜けだったはずだ。

 その様子を知っているから、蓮にも説いてくれたかもしれない。不審に凝り固まった蓮の気持ちを、解きほぐしてくれたのではないか。

 見つめる先で、蓮と目が合う。にこりと笑いかけてくれればまた、否が応にも期待は高まる。


「――ね、月龍」


 食事の途中に蓮が箸を止めたのは、月龍の感情が喜色に傾いたときだった。

 口の端に笑みは刻まれているが、どこか緊張の見える面持ちだった。ごまかしきれない、思いつめた様子が滲んでいる。


 覚悟が必要ななにを口にするつもりなのか。月龍の気も引き締まる。

 宥めてくれたかと思ったが、やはり逆なのではないか。蓮が上機嫌なのは、くだらない男を捨てる決心がついたからではないのか――不安が、胸を襲う。


「今夜は、ここに泊めて頂きたいの」


 多少強張った面持ちが告げたのは、意外な提案だった。

 以前からも時々、亮や嬋玉の元に泊まると言っては共に夜を過ごしたことはある。けれどそれは、仲がこじれる前だ。


 男と夜を共にするというのはこういうことだ――初めて蓮を抱いた日、月龍が口にした台詞だった。

 ならば、蓮もそのつもりになってくれたと言うことだろうか。期待が更に強くなる。

 とはいえ、嬉々として応じるにはためらいが残った。思いつめた表情が、どうしても気にかかる。


「――だが、趙公の心証が悪くなる」


 無難な断りを、やんわりと告げた。

 たとえばこれで、「兄には許しを得ている」と答えられれば、断る口実はなくなる。

 否、もし本当に趙靖が許可したのであれば問題ない。趙靖に月龍とのことを認められた以上に、蓮が説得してくれたのであれば、彼女の決意の証となった。

 蓮はふっと、眉を歪めて笑う。


「大丈夫です。亮さまのところに泊まると伝えてきました」


 また亮か。残念な思いに駆られ、目を伏せる。

 せめて嬋玉と言ってくることはできなかったのか。亮と共に過ごすと言って趙靖が許したのは、亮への信頼だけではない。

 むしろ間違いでも起こしてくれれば――あるいはそれで妊娠でもしてくれれば月龍との仲を裂くことができると、暗々裏に考えているのではないか。思うほどに、ため息も出る。


「――もし断られたら、本当に亮さまのところへ行くしかなくなりますけど……」

「だめだ」


 蓮の言葉が終わるよりも早く、否定を叫ぶ。

 くすりと蓮が笑った。


「よかった。では、泊めてくださいましね」


 笑顔に、自分がはめられたことに気づく。

 蓮と亮に夜を過ごさせるわけにはいかない。防ごうと思えば、ここに泊めるより他はなかった。

 同時に、これは月龍が嫉妬しなければ発動しない罠だ。裏を返せば、蓮は月龍の想いを認めたことになる。


 期待は、以後の蓮の行動によってさらに高まった。

 普段は使わないけれど、客間はある。そこに床を用意しようとしたのは、蓮に止められた。一緒にいたいと、指を絡めてくれた。


 それでも、辛抱するつもりだった。共に臥牀で横になったとしても、夜着深くに手を差しこむことはすまいと決めていた。

 ただ、ぬくもりに寄り添って眠る。それだけで充分のつもりだった。

 だが蓮は身を寄せるだけではなく、体重を預けてくる。


「蓮?」


 怪訝のために向けた目に、蓮の瞳が放つ濡れたような輝きが映る。

 濃いさくらんぼう色の唇が、やけに艶っぽい。わざと乱れさせたと思われる夜着の胸元から覗く白い肌と谷間が、月龍の意識を引いた。

 思わず浮いてきた生唾を、ごくりと飲みこむ。


「なにを――」


 言いかけた口は、蓮の唇にふさがれた。

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