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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第八章

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第十一話 途方


「邵様は一体、どのようなおつもりなのかしら」


 単純に訝しんでいるのではない。月龍を責めるような調子と共に、蓮への皮肉を滲ませているのは、紫玉の浮かべる笑みが物語っていた。

 愕然と立ち尽くす蓮の顔を満足気に覗きこみ、紫玉はああ、とひとつ首肯する。


「きっと、公主ではご満足できなかったのね」


 お可哀想に、とは月龍と蓮、どちらに向けられた言葉なのだろう。


「でしたら公主を自由にして差し上げたらよろしいのに――ああ、それではいけませんわね。身分が手に入らなくなってしまいますもの」


 長身から蓮を見下ろす目は、冷ややかだった。

 わかっている。これは紫玉の嫉妬だ。月龍の傍に居る蓮を、妬んでいるだけだ。

 けれど口にされる言葉には、信憑性を感じてしまう。蓮自身がそう疑っているのだから。


 身分や体が目当てではないと、月龍は言う。それを示すために体の関係を絶ち、以前はよく口にしていた婚姻の話もしなくなった。

 信じてほしいからだというけれど、信用させるための間違いではないのか。蓮が信じれば妻となり、身分は月龍の手に入る。


 だが蓮自身には関心がないから、愛情面は他の女で満たそうとしているのかもしれない。


 自分に当てはめて考えてみる。好きな相手がいるなら、自ら進んで他の者と閨事を行う気にはなれなかった。

 亮とのことは、月龍の指示だった。

 けれど蓮は、月龍に他の女と通じろなどとは言っていないし、言うはずもない。


 月龍の過去の女関係を知っても平然としていられたのは、あくまでも過去の話だったからだ。出会う以前のことを責めても、どうにもできることではない。

 だが今回、月龍は自分の意思で紫玉と床を共にした。彼のつもりはわからないけれど、それだけは疑いようのない事実だった。


「――酷い男」


 くすりと笑う紫玉の声は、優しげですらあった。


「身の程知らずにも公主に手を出すなんて――あのように淫奔な男、公主のような貞淑な女性で満足できないことなどわかりきっていたのに」


 月龍が満足できない理由が、蓮の未熟さにあるのあらばまだ希望はある。好みに近づけるよう、精一杯努力を続けるだけだ。

 けれどそもそも蓮に関心がない場合は――むしろ疎ましく思っている場合は、機会さえ与えられない。


 ――現に今、手を触れようとしないように。


「公主とは、長いおつきあいになりそうですわね」


 薄く笑みが刻まれた紅唇を、悄然と見上げた。

 蓮が鈍くとも、言外に告げられる意図くらいわかった。身分のために蓮と婚姻するが、紫玉は愛妾として月龍の傍に侍ることになる、との意味だ。

 珍しい話ではない。月龍の地位を考えるのならば、いずれそうなっても不自然ではない。


 その「いずれ」すら嫌だと思うのはきっと、我儘だ。

 けれどせめて、蓮にも想いを傾けてほしいと願うくらいは、許されるはずなのに。


 ぎゅっと拳を握りしめる。悔しいのか、悲しいのかもわからない。

 ただ、涙を堪えるために唇を噛みしめる。


「それでは公主、またいずれ。ごきげんよう」


 目前で揺れる、勝ち誇った笑み。挨拶を残し、紫玉が去ったことすら気にならなかった。


 どうしたらいいのだろう――どうしたいのだろう。


 桃の咲き誇る庭を一望できる回廊の花霞の中、蓮は一人、途方に暮れた。

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