表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/156

第十話 凌辱


 上体を起こして衣服を整え、乱れた髪を手で撫でつける。

 ちらりと視線を向けた先では、蓮がゆっくりと体を起こしているところだった。


 酷く緩慢な動作。月龍の手で引きちぎられた衣服をかき集めて胸に抱き、俯いた唇から静かで長いため息が溢れ出した。

 目に涙を溜めた横顔と仕草は、以前頭の中に描いてしまった光景と酷似していた。

 蒼龍に害されてはいないか、蓮は無事でいるだろうかと心配したときに浮かんだ、忌避すべき妄想。


 まさか、命に代えても守りたいと思っていた自分が、蓮を蹂躙しようとは。


 ――今日は蓮を抱いたのではない。力と言葉で脅しつけ、無理に奪い取ったのだ。

 否、おそらくは今日だけではない。蓮の心情としては今までもずっと、同じだったのだろう。


「――もう、抱かない」


 抱けるはずがない。耐えがたい熱を訴えてくる目頭を、抑える。


「えっ……」


 一方的な宣言に、蓮は怯えの色を滲ませて振り返った。


「ごめんなさい。私、なにか気に障ることを? 直します、だから――」

「違う」


 傍に置いてほしいと続けようとしたのか。蓮を遮って、嘆息する。「抱かない」の言葉が、蓮の耳には別れ話に聞こえたのだと思うと、胸が締めつけられる。


「おれがほしいのは、君の心だ」


 たった今蓮を強姦しておいて、白々しいにもほどがある。

 信じてもらえるはずがない。わかっているからこそ、続けなければならなかった。


「体ではない。身分でもない。まして亮の身代わりでなどあるはずもない。おれがほしいのは、蓮だけだ」


 深く蓮を抱きしめながら、そっと語りかける。彼女の耳に、できるだけ優しく響くように。


 信じられないというのならば、籍を入れなくてもいい。

 体や亮の身代わりを望んでいるのではないことは、抱かなければ証明できるはずだ。


 それでも傍を離れず、慈しみ続けていればいずれ、気持ちは伝わる。

 きっといつかは、わかってくれる。


「だから――もう二度と、亮に体を許したりしないでくれ」


 もしまたそのようなことになったら、理性を保てる自信はない。蓮に対しても――亮に対しても。


「ああ……そう、ですわね」


 蓮の手が、月龍の背に回される。抱きしめ返してくれたのだろうか。甘いことに、期待を抱かずにはいられなかった。


「私が、浅はかでした」


 ごめんなさいと続けられて、心臓が疼く。

 先程の今だ。月龍の気持ちを、完全に理解してくれたわけではないだろう。

 けれど、ほんの少しはわかってくれたのではないか。蓮が他の男に触れられたことが、腸が煮えくり返るほどの怒りを誘ったことを――誰にも触れさせたくない、気持ちを。


「あなたは亮さまに触れられないのに――嫉妬を買って、当然でした。申し訳ありません」


 何故そうなるのか。浮かんだ期待は、見事に打ち砕かれた。

 月龍は決して、亮に抱かれた蓮に嫉妬したのではない。蓮を抱いた亮に対して、憤ったのだ。


「違う」


 言葉が出てこない。ただ小さく、違うとくり返す。

 他に出てきたのは、堪えきれなくなった嗚咽だけだった。


「月龍……?」


 月龍が泣いているのが不思議なのか。名を呼ぶ声は、訝しげなものだった。


「好きだ、蓮。ずっと傍にいてくれ――離れないでくれ」


 蓮と月龍は決して、対等ではない。蓮の気分次第で、いつでも仲は切れてしまう。

 月龍にできるのはただ、懇願することだけだった。


 ――否、あと一つ、するべきことがある。


 蓮を抱く腕に、我知らず力がこもるのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ