第四話 危惧
亮と月龍は顔を見合わせる。
衛兵は「公主の従者」が来たと言った。蓮も一緒にいるのであれば、わざわざ従者とは言わないであろう。
だが従者のみが訪ねてこられるほど、亮の立場は易くない。ならばよほどのことがあったと考えるのが妥当だった。
「入れ」
外へ向ける亮の声にも、緊張が見える。促され、入ってきた従者は月龍の顔を見るなり、「やはり」と呟いた。
「なにがやはり、だ?」
「実は――」
話し始めた従者の眉間には、焦燥が滲んでいた。
証を持たぬ月龍を名乗る男が現れたこと、疑いを持つも出てきた蓮に押し切られてしまったこと――
「何故通した!」
簡潔に語られた内容は、許しがたいものだった。
蓮はおそらく、蒼龍を引き入れてしまうに違いない。だからこその「証」だった。
もし仮に、本当に月龍が証を忘れたのならば、蓮が邸を去るまでは帰ることすら諦める。己の失敗を認め、その日は蓮に会えずとも我慢する。
それくらいの覚悟はしていたというのに。
「阿呆。こいつの立場で、それほど蓮に強く言えるはずがない。蓮のことだ、かなり強引だったのだろう。こうやって知らせに来ただけでも利口だ」
従者をかばうのではなく、月龍をたしなめる意図だろう。
「それに、だ。考えてもみろ。もしこいつが無理に立ちはだかったとして、失敗を確信したあの男がどのような行動に出るかわからん。それこそ、最悪の結果になる可能性すらある」
片眉を上げた呆れの表情に、それ以上はなにも言えなくなる。
亮の言葉は、いつも正しい。感情は豊かなのに、それとは別に物事を客観視できる。
だが、正論であるが故に腹立たしいことがあるのも事実だった。
「――帰る」
今がまさに、そうだった。正しさ故に反論を封じられれば、他に道はない。
そもそも、立ち止まっている時間はなかった。今蓮は、蒼龍と二人でいる。
亮が言うように、企みを阻まれ、自棄になった蒼龍が蓮に危害を加える可能性も、皆無ではなかった。
凌辱の限りを尽くされた、蓮の無残な姿が脳裏に浮かぶ。
「おう。なにかあれば知らせをよこせ」
かけられた声に返事をする暇も惜しく、月龍は亮の元を後にした。




