表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/144

第七話 目論見

 本当はその夜、蓮を離したくなかった。

 結ばれた余韻に浸り、ぬくもりを抱きしめながら眠れたら、どれだけ幸せなことだろう。

 しかし、ただでさえ蓮の兄、趙靖(チョウセイ)に疎まれているはずだ。外泊などさせて、余計に機嫌を損ねるわけにはいかなかった。

 月龍が望めば、蓮は応えてくれる。それを実証できただけで、今は充分だった。

 蓮を邸まで送り、その足で亮の元へと向かった。やって来た月龍に、亮は眉をひそめる。


「なんだ、このような時刻に。蓮となにかあったか」


 一層のこと別れた、などと言ってくれれば笑い飛ばしてやる。

 最後にはにやりと口元を歪める亮に、むっと顔をしかめた。


 確かに蓮と出会って以降は、彼女絡みの相談でしか訪れてはいない。毎度のようにからかわれながら、それでも他に頼れる者もなく、つい亮に甘えてきた。

 だから訪ねて来たことを蓮と結び付けられても無理はない。


 無理はないが、面白くもなかった。

 実際に、自らの出自よりも蓮の心変わりの可能性にこそ動揺しただけに、尚更だ。


「考えた」


 卓の前で胡坐をかいて座る。たった一言の発言に、亮は面白がるように片眉を上げた。


「ほう、これは珍しい! お前が物を考えるとはな。どうやって元譲(ゲンジョウ)殿を口説くか、妙案でも思い付いたか」

「茶々を入れるな」


 ふざけていられる内容ではない。月龍では決して叶わぬ、趙靖の字をさらりと呼ぶことにやっかみもあり、多少辟易としながら嗜めると、亮もわずかに神妙な顔になる。


「ふん、しかしちょうどいいところに来たものだ。おれもお前に話があってな」

「話?」


 亮から月龍に話があるのは、月龍が物を考える以上に珍しい。いつも一方的に相談事を持ち込むのは月龍だ。

 その逆で考えられるのは――政治絡みの話か。

 月龍の顔も、自然と険しくなる。


「ああ、おれの話は後でいい。今はお前の話だ」


 身を翻した亮が、月龍の向かいに腰を下ろす。ふわりと香油の香りがした。

 蓮と種類は違うはずだが、花の香――けれど彼女のような甘さはなく、亮によく似合う何処か妖艶な香りだった。

 卓に肘を付き、気だるそうに長い髪をかき上げる仕草にも、色気が漂う。

 伏せた目元は、蓮にも劣らぬほど長い睫毛が縁取っている。半開きの目の中にある瞳は、琥珀のようだった。

 宝玉の輝きをわずかに持ち上げ、月龍を真っ直ぐに見つめ――


「――月龍? どうした」


 呆然とする月龍を怪訝に思ったのだろう。眉根を寄せられて、我に返る。

 亮とはすでに、十数年来の付き合いだ。顔などもう、見飽きるほどに見ているはずなのに。


「否、別に」


 お前の美しさに見惚れていたなどと言えるはずもない。軽い咳払いで誤魔化す。


「それほどの大事か」


 口元を覆う仕草を、大事のあまりと判断したのか。

 誤解してくれたことに安堵し、けれど事の大きさを思い出して深呼吸する。


「双子だ」

「――は?」


 唖然とする反応は当然のもの。見開かれた目に、頷き返す。

 亮は頭を抱えた。


「待て月龍。おれが阿呆なのか? 話が全く見えん。もう少しわかるように話せ、阿呆」


 最後には月龍を阿呆呼ばわりするのが亮らしい。

 また、そう言われて初めて説明不足に気づくのも月龍らしかった。ぽつぽつと事情を話し始める。


 蒼龍と名乗る男と会ったこと、蓮は以前から彼の存在を知っていたこと、(セツ)の子息であり、月龍に明らかな敵意を向けていたこと――


「蓮の膝枕の件。お前は事情を説明したと言うが、おれは聞いていない。それは、お前が会ったのがおれではなく、あの男だったからではないかと」

「なるほど。そこでようやく始めの、考えた、に繋がるわけか」


 完全に呆れた声で言いながら、ばさばさと髪をかき回す。

 粗雑な動作さえ、やけに絵になっていた。


「しかし――あれが別人か?」


 眉間に皺を寄せて、宙を睨む。

 蒼龍が立っていた場所だろうか。鋭い目付きは、其処に浮かぶ残像を品定めしているようだ。


「まぁ、あれが別人と言うなら双子以外は考えられんか。――それにしても、蓮は大したものだな」


 何故急に蓮の名が出てくるのか。

 わからず、次の言葉を待つ。


「あの男、お前の振りでおれに会いに来た。蓮の時も同じだっただろう。おれと同じ条件で、蓮は見分けたということだ。――随分と惚れ込まれたものだな」


 羨ましいことだと加えて、横目が流される。何処か冷ややかな眼差しも気にならなかった。

 言われてみればその通りだ。

 亮でさえ――自分自身でさえ見分けるのが厳しいほど、蒼龍はよく似ていた。別人と見抜いた蓮の眼力は、特筆に価する。

 元々の勘の鋭さだけではなく、想いの強さが理由ならば何と喜ばしいことか。

 ふと、口元が緩む。


「そこで、だ。お前、その男の狙いは何だと思う?」


 問われて、はたと動きが止まる。

 蒼龍が月龍を騙って亮に会ったのではないか、とは考えた。けれど何故そのようなことをしたのかまでは考えが至らぬ鈍さに、我ながら呆れる。


「お前と最も親しいのは、おれと蓮だ。その二人が見分けられないならば、他者にも気づかれん。そう考えて試しに来たのだろうが」


 見分けられなければどうだと言うのか。蓮や亮を騙して、なんの利益が――

 否。騙すのは過程であって、目的ではない。狙いは他にあったのだ。


「――成り代わりだ」


 嘆息まじりの声が告げたのは、意外な言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ