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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第四章

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第二話 出自


 蓮の隣りにある月龍の姿を、何故月龍自身が他人の目で見ているのだろう。

 愕然と目を見開き、ただ立ち尽くす。


「迎えに来てくださったの?」


 月龍を見つけると、蓮はなんのこだわりもなく笑う。無邪気な表情と口調は、まるで子どもだ。まろぶように駆け寄って来ると、棒立ちになった月龍に飛びついてくる。

 蓮を抱きとめることもできず、愕然と男の顔を見つめていた。


 通りの向こうにいれば、姿身でも置いてあるのかと思うだろう。

 けれど鏡などではない。面立ちは酷似していたが、月龍にあのような装飾品は似合わなかった。

 なによりもその顔に刻まれた笑み。妖艶さを醸し出す微笑の優美さは、月龍とはかけ離れている。


 ざりっと、男の足音が聞こえた。体ごと向き直り、足が踏み出される。その分、月龍は後退した。

 男の目が細められる。


「お初にお目にかかる――兄上」


 男が発した声はやはり、月龍と同じだった。予想できてはいたけれど、いざ耳にすると怖気が走る。


「本当はもっと早く会いに行かなければならなかったのでしょうが――私の顔は、ご覧の通り」


 かすかに苦味を含んだ笑みが、口の端に閃く。自らの頬に手をやる仕草が、妙に艶めかしかった。


「初めて遠目であなたを見たときは、心臓が止まるかと思いました。まるで自分自身がそこにいるようで――双子の兄弟がいると知っていた私ですら衝撃を受けたのですから、突然姿を現しては、兄上を混乱させるばかりかと」


 双子の兄弟。男はさらりと、重大な単語を口にした。

 確かに、この似方は異常だった。そうでもなければ、説明がつかないほどの類似ではある。

 兄弟がいると知っていたこの男は、出自も知っているのだろうか。

 ならば生涯わからぬと思っていた月龍の出生も、わかる。

 見えない拳が胸を打ち続けているかのように、痛みが心臓に走る。呼吸もままならない。息を吸っているのか、吐いているのかさえ定かではなかった。


「折を見て、彼女に仲介を頼むことになっていたのです」


 嘘だ。直感が否定を叫ぶ。

 突然現れては驚きもするし、混乱もするだろう。

 だが「折」とはいつだ。どのような時期であれば、困惑させずにすむと言うのか。


 まして、男の表情。余裕を刻んだ笑みは、月龍が受けた衝撃を楽しみこそすれ、同情などとは程遠いところにある。

 挑発的な光を瞳に乗せて、男は続けた。


「あなたを養子に出す時、父は邵殿と約束したと聞いています。あなたの出自を、絶対に他言しないこと、と。邵殿は、その約束を守っていたのですね。周囲だけではなく、あなた自身にも話していなかったとは。――もっとも、知れば近付きたくなるかもしれない。そうなればもう一つの条件、あなたを(セツ)家には近寄らせない、との約束を違えることになるから、あえて教えなかったのでしょうが」


 長々と続くのは、思わせぶりな調子。自分とよく似た顔、声が紡ぐ饒舌ぶりに辟易とし――

 薛家。男が口にした名に、ようやく気づく。


 薛は、北方の諸侯だ。政情に疎く、また、まるで関心のない月龍でさえ名を知るほど、有力だった。

 薛候を父と呼ぶこの男が双子の兄弟と言うなら、月龍にも貴族の血が流れているのか。


 否、それはおかしい。

 男は、月龍を兄と呼んだ。もし二人が薛家の子息であったとして、どちらかを養子に出すのならば弟だろう。あえて嫡男を外に出すとは考え難い。

 ならば何処かの双子を、薛と邵、それぞれ一人ずつ養子に出したのではないか。

 それもない。兄と弟では扱いが違うのは当然で、より兄の方が尊重される。ならば宦官などではなく、諸侯の方に兄を差し出すはずだ。

 何より男の口ぶりからは、薛家から養子に出されたとしか思えない。


「――何故」


 兄が養子に出されたのか。近付いてはならぬ月龍に会いに来たのか。問いかけは、喉の奥に張り付く。

 男の目に浮かぶ、憎悪の色に気圧されて。


「あなたが、後から生まれた兄だったからです」


 男が発したのは、不思議な言葉だった。

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