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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第三章

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第七話 策略


 月龍の態度は、非道と言えた。「来客中」などとは如何にも嘘臭い。蓮を追い払うためでしかないのは、傍目にも明らかだった。

 鈍い娘でも、さすがに気づく。現に、見送る蓮の姿は、背中を見るだけで沈んだ表情まで想像できるほどだった。


 泣いているのだろうか。否、従者の手前、涙は見せられないかもしれぬ。取り乱して泣くなど、貴人にはあるまじき行為だ。

 ――そうやって悲しむのは、月龍に想いをかけているからか?

 ならば。


 今が好機だ。


「公主!」


 時期を逸すれば、うまくいくものもいかぬ。後を追って呼び止めると、振り返るのは蓮よりも従者の方が早かった。


(ショウ)様」


 蓮の目には驚きが、従者の顔にはさらに非難の色が加えられている。

 当然のことだと思うから、動揺はない。ただ、僅かに眉をひそめて見せた。従者には申し訳なさそうに、蓮の目には悲しげに映るように。


「私も、あなたにお話があります。少しだけでもいい、お付き合い下さいますか」

「――でも」

「なにを調子のいいことを仰っているのか」


 でも、の一言に否定の意味でも感じ取ったか、それとも聞かぬ振りも限界に達したか。従者は非難に満ちた目で睨みつけてくる。

 従者にとって蓮は、主の従姉妹というだけではなく、幼い頃から成長を見守ってきた、大切な存在に違いない。月龍の行ないが許せないのも、道理だった。


「蓮様を追い返したのは、つい先程のこと。それを」

「申し訳ないと思っている」


 語尾を、掠め取るようにして言った。あっさりと謝罪されるなどとは思っていなかったのだろう、唖然と見上げてくる。

 同じく目を丸くしていた蓮が、小さく笑った。


「――あなたが謝ることはありませんのに」

「しかし、謝罪以外のなにをできるのか、私には思いつかない」

「私にもよくないところがあったのでしょうし――だから、お気になさらないで。でも」


 眉が歪んだ、悲しげな笑みが真っ直ぐに向けられる。


「でも、私はもうあなたのお役には立てないかもしれません」


 ――ここまでは希望通りだ。

 辛そうな表情を作って見せる。蓮の同情を勝ち取るのはきっと、そう難しくはない。


「そのような寂しいことは仰らないで頂きたい。どうか話だけでも――許してはもらえまいか」


 許可を求めたのは、蓮にというよりも従者に対してだった。

 邸まで無事に送り届ける任務を仰せつかったのは、従者だ。蓮を借り受けたく思うならば、彼の許可を得なければ話にならなかった。

 無理に蓮を連れ出しては、亮や蓮の兄、(セイ)になんと報告されるかわかったものではない。これ以上、立場を悪くするわけにはいかなかった。


 この従者は話のわからぬ男ではない。蓮を幼い頃から知っているように、亮の元に出入りしていた月龍のことも知っているはずなのだから。

 先程の怒りは、蓮に冷淡な態度をとったことへの義憤であり、月龍本人を嫌っているわけではない。態度を改めるのならば――当の蓮がよしとするなら、断りはしない。


「それは、私に是非を決められる問題ではありません。蓮様」

「私は――この方とご一緒します」


 思っていた通り、困惑を浮かべた従者は蓮の判断を仰ぐ。蓮からの返事も、予想できていたものだった。

 あまりにうまくいくので、思わず口元が弛む。それは場違いなものだ。ただ、眉根を寄せることで修正はできる。

 感謝と心痛を示すための笑みに見せかけるのは、案外容易だ。


「ありがとう。公主は、私が責任をもって邸まで送り届ける」


 従者は二人の顔を見比べ――ではよろしくお願いいたします、と頭を下げた。

 安堵しているように見えたのはきっと気のせいではない。

 蓮が未だ月龍を気にかけているのは、明白だった。そして一旦は冷酷に追い出した月龍が、おそらくは反省し、思いやりを持って蓮に接していると見える。

 蓮の幸せを願う者にとって、この状況は喜ばしいはずだ。


 従者が去るのを待って、そっと蓮の頬に手を伸ばす。


「あなたに、悲しい顔は似合わない」


 誰のせいだと思っているのか。

 そのような罵倒は、蓮の口から発せられない。――発せられるわけがない。


 ここからが肝要だ。

 蓮の目には極めて優しく、魅力的に映るように笑みを刻む。


 ――ああ。このような時、この顔はやはり効果的だ。


 笑みに誘発されたのだろう。

 わずかながら弛んだ蓮の頬に信頼を見つけ、満足を隠せなかった。

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