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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第三章

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第一話 鬱屈


 早朝、(リーアン)を訪ねてきたのは月龍(ユエルン)だった。

 亮が朝を苦手と知っている月龍が、このような時刻に現れるのは珍しい。

 なにか特別な事情でもあるのかと思う傍ら、頭の中はまだ半分以上眠っていた。臥牀(がしょう)の上に体を起こし、歩み寄ってくる月龍を呆然と見上げる。


「亮」


 なんだ、と返事をする間もなかった。突然、月龍に抱きしめられる。勢いで、押し倒された格好となった。

 (ショウ)月龍は殿下に惚れている。宮中に流布する馬鹿げた噂が、脳裏をよぎった。

 当然、眠気は一気に覚める。


「な、なにを――」

「教えてくれ、亮」


 焦る亮の耳元で囁かれたのは、震えた声だった。憔悴の色も見て取れる。


「――どうした」


 さすがに心配になってかけた声に、月龍は一瞬口ごもる。


「実は昨日、その――公主を抱いた」


 亮の頭に血が上ったのを、誰に責められよう。

 昨夜、なんなら泊まれと、蓮を唆したのは亮だ。そのような事態になることも、まるで想像していなかったわけではない。

 そもそも二人は恋人同士なのだから、おかしな話ではない。


 けれど、覚悟も観念もしてやるが、報告までされてやる義理はない。

 とん、と月龍の胸を押して離れる。


「よかったではないか。それでなにを教えろと? おれは蓮を抱いたことはない。悦ばせ方なんぞ、訊かれても知らんぞ」


 口調にも声にも表れる苛立ちを、隠す気にもなれなかった。感情に任せた八つ当たり気味な発言に、月龍もむっと顔をしかめる。


「わかっている」

「ではなにを訊こうと言うのか」


 問いに、月龍はいつにも増して怒ったような顔で、昨夜のこととやらをぽつりぽつりと語り始めた。


 昨夜、精神を落ち着かせる薬を服用した。そのせいか、最中のことははっきりとは覚えていないが、眠る蓮の顔には涙が残っていた。

 自分が気づかなかっただけで、抵抗されていたのではないか、これからどうすればいい――要約すると、そういった内容だった。


「なんだ。お前、まだあの薬を使っていたのか」


 話を聞き終えて、真っ先に指摘したのはそのことだった。

 体に毒となり兼ねないものを摂取し続ける気が知れぬ、さっさとやめてしまえと、幾度諌めたか知れない。

 眉をひそめた亮の苦言に、月龍も口の端をぐっと下方向に歪める。


「しばらくは絶っていた。公主の笑顔があれば、あのような物は必要ない」

「おれに言わせればその惚気も必要ないのだがな。それで? しばらくは絶っていたものを、何故使用した」

「それは」


 一言呟いて、再度口ごもった。顔はこちらを向いているのに、気まずそうに視線を横に流している。

 なにか言いたいことがありそうだった。遠慮する間柄でもないのにと思うと、無性に腹が立つ。


「それは、なんだ。言っておくが、その図体で拗ねられても可愛くともなんともないぞ。不気味なだけだ」

「ならば言うが、亮、お前のせいだろう」


 責罵の声に、たまらず、といった風に月龍が反論する。


「おれの?」


 予想外の台詞だった。身に覚えはない。


 ――否、あるか。

 一つだけ可能性に思い至り、おいおいおい、と呆れた。


「もしかして昨日、様子を見に行ってやれとおれが言ったせい、などとは言うなよ」


 だとすれば、限りなく言い掛かりに近い。


「なんなら泊まれとも言ったさ。それがいらん世話だったと言われればそうかも知れんが――」

「違う」


 亮が言い訳するのもおかしいが、黙っていられなかった。並べ立てる保身の言葉を、月龍が短く遮る。

 その後、少し考える素振りを見せてから言った。


「それもあるが、もっと違うことだ」


 それもあるのか。

 理不尽に思うが、そのことをつついても問題はきっと進まない。不本意ではあるが反論を飲み込む。


「違うこと? 他には心当たりなどないぞ」

「一昨日のことだ、と言ってもか」


 月龍の目が、臥牀の上に向けられる。

 臥牀、一昨日――と言われれば、思い当たることは一つしかなかった。

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