表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/185

第六話 喪失


 蓮の微笑みが自分以外の男に向けられる。

 想いが、蓮のすべてが奪われてしまう。

 月龍の中に生まれた感情はきっと、恐怖だったのだろう。けれど怒りとしてしか、表現できなかった。


「優しくされたから? 愛していると囁かれたから、だと?」


 憎々し気な響きだった。背筋が凍る恐怖を覚えてもおかしくないのに、蓮の表情は動かない。

 この顔が、嫌いだ。整ってはいても作り物のような美貌になど興味はない。


 なんなら目の前で抱いてみろと言ったのは、ただの挑発ではなかった。仮にそうなっていたら、喜びに染まる蓮の顔を見ることはできる。

 まして蒼龍は月龍とよく似ている。その姿に自分を重ね、睦み合っている錯覚に浸れるかもしれないとも考えた。


 他の男が蓮に触れるのは許せないのに、矛盾している。けれど、それでも蓮の顔に感情が浮かぶのを見たかった。

 立ち去る蒼龍に向けられた微笑みにも、一瞬動揺し、次には嬉しくなった。たとえ寂しげだったとしても、笑顔を見たのはどれくらいぶりだったろうか。


 けれどすぐに、それが向けられたのが自分ではなく弟なのだと思い出し、腹立たしくなった。

 ――もしかしたら、言葉を真に受けた蒼龍が蓮を抱いていたとして、幸せそうな彼女を見られた喜びと、それに倍する憤りに襲われていたかもしれないが。


「そうされれば誰にでも抱かれるのか」


 月龍が幾度、愛していると言ったと思っているのか。聞く耳すら持たず、信じてくれなかったではないか。

 優しくしたかったに決まっている。だがそうしていたら、逃げ出していたのではないか。恐怖で縛りつける以外、傍に居てくれなかったくせに。


 ただ、蓮を失いたくなかった。だからこそ愛の言葉を飲みこんだ。頬を撫でる代わりに打ちつけた。

 すべて、蓮の傍に居るためだったのに。


「清純そうな顔をした淫売が。恋人の親友や上官だけでは飽き足らず、弟までか」


 蓮を引き寄せ、小さな体を片手で抱え込む。もう片方の手は、懐にある懐剣に伸ばされていた。


「おれの知らぬ男となれば、一体どれだけの数に及ぶのか」


 蓮の名誉を著しく損なう発言は、本意と挑発が混じり合ったものだ。

 亮や楊の件は、お前が命じたのだろうと罵倒してほしい。そうしたら、謝ることができる。

 そして、蒼龍のことを責められる。

 心は千々に乱れ、なにを望んでいるのかさえ分からない。


「反論はないのか。本当に――そうなのか」


 懐剣を、鞘から抜く。

 刀身を見ても、蓮の顔は変わらない。喉元に突きつけられても、命乞いひとつしなかった。

 刃が目に入っていないとでも言うのか、無気力な視線を宙にさまよわせている。


 ――こんなもの、いらない。


 懐剣を持つ手に、力がこもった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ