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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十二章

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第五話 悪夢


 蒼龍の後ろ姿が消え、足音も聞こえなくなった。戻ってくる気配もない。

 確認と共に、刀を引く。刃を鞘に収めて、枕元へと置いた。


「さて、話を聞かせてもらおうか」


 覗きこんだ蓮の顔からは、再び感情が失われていた。蒼龍に向けた笑みも、帰ってきた月龍を見た瞬間に浮かんだ恐れも、すでにない。

 臥牀の上、自力で座っているだけですら疲れ、そのまま壁にもたれかかる。


 いつもならば、薬がとっくに幸せな夢を運んでくれる頃だった。けれど今は、水に浮かんだような感覚があるだけで、一向に夢は訪れない。

 体が薬に慣れたせいで、効果が薄れてきたのか。それとも、薬などよりもよほど衝撃の強い、悪夢としか思えぬ光景を目にしたせいか。


 そう、悪夢だった。蓮が他の男に、自らの意思で身を任せたなどと。


「何故あの男に身体を許した」


 腸が煮えくり返るほどの怒りに苛まれているのに、表には出ない。壁に寄りかかり蓮の冷たい横顔を見ながら、薬がもたらす軽い酩酊感のために口元が緩む。


「あの男が言った弁明の中に、真実はあるのか」


 蒼龍が口にした、現実味のない言い訳。あの中に本当のことがあれば――蓮が自発的に裏切ったわけではないのであればいい、そう願っていることには気づいていた。


 誤解などとはあり得ない。だが他の可能性は残されているのではないか。

 たとえば蒼龍が力ずくで押さえたのならば、蓮の望みではなかったことになる。


 けれど月龍の目は捉えていた。蒼龍の首に回された、蓮の華奢な白い腕を。

 耳も、捉えている。大好きだと囁きかける、蓮の甘い声を。


 蒼龍が月龍の真似で蓮を騙したという説は――無理がある。今更蓮が見間違えるはずもなく、なにより今では月龍に対して心を閉ざしていた。月龍を相手と思い、あれほど甘美な反応を示すわけがない。


 蓮は、月龍を嫌っているのだから。


「――優しくしてくださったから」


 ちらりと視線だけで振り返った蓮が、小さく洩らす。


「優しくしてくださって、嬉しかったの。愛しているとも。だから――」


 訥々と、か細い声が続く。


 視界が真っ白に染まったのは、絶望のためかようやく訪れた薬の作用か。白い靄の中に、映像が浮かび上がる。

 いつもの幸せな夢とは違っていた。


 蓮は笑っている。嬉しそうに、楽しそうに笑う蓮の姿は望み通りだった。

 けれどその笑顔の先にあるのは月龍ではなく、蒼龍。彼の腕の中、うっとりと寄り添う姿だった。

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