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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十一章

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第十一話 信憑性


 勧められるままに(こしかけ)に座る。蒼龍の前に盃を置いた蓮が、向かい合う形で腰を下ろした。

 俯き、ぽつぽつと語られ始めた話は、到底信じがたいものだった。

 身分目当て、ましてや亮の身代わりなどとは馬鹿らしい。他の男に抱かれて来いだの、上官に蓮の身体を売った挙句に暴力を振るい、自分は他所に女をつくる――彼女の話が本当ならば、紛れもなく屑ではないか。


 月龍の周りを嗅ぎ回り、調べてはいたけれど、直接顔を合わせたのはほんの数回だった。だがその数回でさえはっきりとわかるほど、蓮に傾倒していた。異常な執着は、疑うべくもなかった。


 だからこそ蓮が語る月龍の言動に、信憑性を見出せない。


 けれど、蓮が嘘を口にする女ではないこともわかる。蒼龍を騙して、蓮に得もない。

 なにより、杏のようにふっくらとしていた頬は細くなり、顔色の悪さはやつれているとしか表現できないほどだった。表情、態度、容姿、変わった蓮のすべては月龍に起因すると考えた方が自然である。


 月龍は一体、なにを考えている? 思考が読めず、黙り込んだ。


 おそらく月龍の性質は、蒼龍に似ている。ならば冷血漢だろうとは推測できた。そう仮定した上で、考えてみる。


 本当に目当てが身分だけであれば、傍に置くだけで関心は示さないだろう。暴力による束縛、まして犯してまで関係を持とうとするはずはない。

 ならばやはり、月龍の想いは蓮にあると考えるのが妥当だ。


 けれどそれでは、傷つける意味がわからない。惚れた女に、あえて嫌わせてなにになる。

 心を崩壊させ、表情を失った女を手元において、なにが楽しいというのか。


 否、理解できないのは月龍の言動だけではない。蓮の在り方も、謎だった。

 自我を押し殺してまでも、月龍の傍に居たいのか。それほどまでに、あの男が愛しいのか。


 ――何故、おれではいけないのか。


「あの人は君を侮辱し、挙句の果てには暴力まで振るった。最低の男だとは思わないか。何故そこまで尽くす必要がある」

「違うの」


 己の中に生まれた苛立ちの意味も、理解できなかった。御し得ぬ感情をそのまま舌に乗せれば、自然と月龍への非難になる。

 蓮が、慌てて頭を振った。


「月龍は悪くないの。悪いのは、私の方です。月龍の意に添うことができないから――いつも、怒らせるようなことをしてしまうから。月龍が暴力を振るっているのではなくて、私がそのように仕向けてしまっているのだと――」

「それはあの人の受け売りか」


 とってつけたような弁明を、一言で遮る。黙り込むところを見ると、事実なのだろう。

 なにかが、胸の内でふつふつと音を立てる。


「あの人はただ、自分の罪を君になすりつけているだけだ。君の何処に非がある? 誰がどう考えたところで明白ではないか」

「でも――私は本当に、あの方をいつも苛立たせてしまうの」


 いけないと思うのに、語気が強くなる。

 それでも蓮は、まったく恐れない。もっと強い語調に慣れているせいか。

 ただ、眉を寄せて笑う。


「私に望んでくれることが、どうしてもわからなくて。だから仰るとおりに行動すれば間違いないと思って、そうしてみるのだけど――やっぱり、怒らせてしまうの」

「それは――」


 そうだろう。相手がただ、都合のいい女ならばそれでいい。

 けれど蓮ならば――心を寄せた女性が我を失い、言うなりになって嬉しいはずがなかった。


「でも――でもね。時々だけれど、優しくしてくれることもあるの。そういうときはきっと、月龍の意に適った言動ができたのだと――」

「その気まぐれのような優しさが、君を月龍に繋ぎ止めている理由か」


 優しさが欲しいのならば、亮殿下でもいいはずだ。

 ――蒼龍でも。


「――言って下さるの、私が必要だと。手を上げた後に、謝ってくれることも。私でなくてはいけないと」

「だから? あの人が君を愛しているとでも言いたいのか」

「――わかりません」


 月龍を庇い立てる発言をしていた蓮が、ふっと俯く。


「私が亮さまの身代わりだと言われれば、納得もできるのです。印象が似ているのは、事実ですから。でも、より似せようと同じ香油を使ってみたのだけど、余計に怒らせてしまって」


 どうしてなのかと言いたげなため息に、返す言葉が見つからなかった。

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