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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十一章

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第九話 鍛冶師


「褒められたことではないが――小細工をした」


 帯に差しこんだ懐剣を蓮にも見せると、案の定驚きに目を瞠った。

 未だ立太子していない亮の、「王太子亮」の紋。蓮でさえはっきりとは知らないそれを知っている者など、限られていた。


 とはいえ、その紋様が刻まれた懐剣がある以上、作った者がいる。ならばその者を探し出し、もう一度作らせればいい。

 王家直属の鍛冶師からあたった。そして行き着いたのは、ある時期、急に隠居した者だった。

 まだ若く、腕も良かったはずの男が不自然にこもれば答えは自ずと出てくる。

 もっとも、その懐剣の存在を知っていれば、の話ではあるが。

 知らなければ謎の隠居だ。地方で細々と鍛冶を行っているだけにしては、羽振りも悪くない。生活の保障、もしくは多額の金銭でも渡されていたのだろう。

 初めは訪れた蒼龍を警戒していた。懐剣についても、知らぬ存ぜぬを決め込んでいた。


 そこで蒼龍は、この件に関わったと思われる伊尹(イイン)を抱きこんだ。


 伊尹はいずれ、王朝を見限るだろう。予測していたから、「(セツ)家の嫡男」として近づいたのだ。

 蒼龍も初めから薛侯に反抗していたわけではない。長子でなければ意味がないと言う父の関心を買うための努力はしていた。


 元服後は父について回った。父も、跡取りの顔を周囲に売っておくのは悪くないと思っていたのだろう。「いずれあちらと入れ替わるにせよ、顔は同じだ」そう言っていた。

 結果は認められず、すべてを投げ捨てて出奔したけれど、あの経験は無駄にはならなかった。


 薛は商寄りの諸侯だ。父は商の高官たちに顔が利く。薛家の嫡男として、蒼龍も一部では顔を知られていた。

 その一部に、接触を図ったのだ。


 無論、薛家の嫡男が出奔した話は知られていたが、ごまかすための説明はそう難しくもない。「出奔したということにして夏に入り、内情を探っている」とでも言えば、疑われることもなかった。


 また、夏の王宮内を歩くにも支障はない。忍んで入り込むには、蒼龍の体格は大きく目立ちやすいので向きはしないが、なにせ「この顔」だ。月龍と思われ、咎められることもない。


 そうやって、伊尹に近づいた。いずれ商へと投降するならば、あちらの高官に渡りをつけてやる、と。


 蒼龍の甘言に惑わされたというより、伊尹も以前から考えていたのだろう。彼はあっさりと話に乗った。

 無論、最初は警戒していたが、実際に幾度か商の高官に会わせて、信用を得た。

 伊尹に対しては嘘も言っていなければ、騙してもいない。その必要はないからだ。彼を味方につけ、鍛冶師の説得に協力してもらえればいいだけなのだから。

 伊尹を丸め込み、鍛冶師に「儀式用としての予備が必要になった」と新しく作るための依頼をさせた。


 たった、この一言のためだけの苦労だった。


 情勢が変わるかもしれない。脳裏を掠めた予感には、耳も貸さなかった。

 王朝も商も、蒼龍には関係ない。世界がどう変わろうと、世を捨てた者にとっては些事だ。

 ただ、月龍を自分のところにまで引きずり落としてやる。目的はそこに集約していた。

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