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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十一章

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第八話 小細工


 もうすぐ蓮に会える。そう思うだけで、無自覚に笑みが浮かんだ。

 建物としては立派だが、造りはやや単純な邸。廊下を行き、突き当りに居間がある。寝室や他の部屋へは居間を通る形となっていた。

 蓮は居間で待っているはずだ。今日こそは――決意が、喜色となって面を覆う。

 扉に手をかけ、高鳴る鼓動を感じていた。


 さぁ、いよいよだ。蓮はどのような表情で迎えてくれるのか。


 期待に胸躍るとは、こういうことだろう。

 緩む口元を自覚しながらゆっくりと扉を押し開く。

 その向こうに、蓮の姿があった。


「おかえりなさいませ、月龍さま」


 抑揚のない声。平伏しての出迎えに、瞬時には反応できなかった。

 出入り口に立ち尽くしたまま、唖然とする。どう対応すればいいのか、まったくわからない。


「お食事の用意をいたします。しばらく、お待ちください」


 感情のない目と目が合うも、蓮が頭を下げる行為で顔を背ける。

 そのまま厨へ向かおうとしたのか、踵を返す蓮の腕を慌てて掴む。


「待ってくれ」


 信じられぬ光景が広がっていた。喜色に浮かれていた顔は、焦りで染まっている。顔が引きつり、笑いかけようとするのだけれど、うまくいかない。

 腕を掴まれ、振り返る蓮の顔にはやはり、感情が見えなかった。

 蓮の瞳孔に映る自分の顔が、困惑に歪んでいた。けれど蓮はただそれを映しているだけで見てはいないのだろう。


 でなければ、気づかないはずがない。


「まさか――おれがわからないのか」


 思わず洩らした呟きに、蓮は不思議そうな顔をする。不快に近い表情で凝視し――少しの間のあと、ようやくあっと声を上げた。


「もしかして、蒼龍?」


 問いに頷く笑顔は、おそらくぎこちないものだった。

 状況が、理解できない。

 相手が月龍にしろ蒼龍にしろ、平伏しての出迎えなど予想の範疇を越えていた。蓮の性格からすれば、仔猫のように飛び込んできてくれるのではないかと期待していたのに。


 驚きが落ち着いたのか、ほぅと息を吐く安堵の様子もおかしかった。月龍に緊張し、蒼龍と知って警戒を解くなど、あり得ない。


「どうした、蓮。おれと兄上を見間違えるなどと」


 疑問は多くあれど、もっとも不思議なのはやはりその点だった。

 双子の兄弟がいると知らぬときでさえ、別人と見抜いていた。その後も、一度たりとも間違えたことはなかった。それが今になって区別がつかないとは、どういうことか。


「ごめんなさい。あなたがここへ来られるとは思っていなくて」


 困ったように笑う弁解は、たしかにその通りだろうとは思う。門番をやりすごし、邸の中に入ってこられるのは月龍だけだと油断していたのかもしれない。

 けれど、それだけで本当に間違えるものだろうか。


 疑問の眼差しが痛いのかもしれない。憔悴を見せて俯き、けれど、と思い直したように上げた顔には、自嘲気味の笑みが浮いていた。


「どうやってここに?」


 質問は当然のものだった。門前で行われる確認は、蒼龍を寄せつけない目的で始められた。

 蒼龍の腕が立つことも考慮され、門前の兵士だけではなく、別の隠れた場所に見張りを配置する徹底ぶりだ。門番を力でねじ伏せれば、その見張りが即座に使いを出す手はずになっているらしい。

 蒼龍が堂々と入ってきて、なおかつ騒ぎが起きていない状況は、たしかに不思議だろう。


「褒められたことではないが――小細工をした」


 少し眉を下げて、笑って見せた。

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