第一話 気づき
月龍は一人、卓を囲む榻に座ったまま酒を煽っていた。
卓にはいつものように、蓮が用意してくれた食事が並んでいる。本当ならば今頃、二人でこれを食べていただろうか。
それとも食事を終え、夜の儀式に入っていた頃かもしれない。
考えて、身が竦む。蓮は今まさに、違う男を相手にしている可能性があるのだから。
――まさか。
手にした盃を一気に煽って、さらに酒を注ぐ。
あの蓮が、嫌う男に体を許せるはずがない。以前のことは、相手が亮だったから辛抱できたのだ。亮も言っていたではないか、蓮は泣いていたと。
あの亮を相手にさえ泣いたというなら、楊闢で耐えられるはずがない。まず間違いなく、逃げ戻ってくるはずだ。
蓮が謝ってきたら、これでよかったのだと抱きしめよう。試してしまったことを詫びて、本当は愛しているのだと囁いて――
自分勝手に考えながらも、不安が残る。蓮が逃げ戻ってくるのは、月龍のために恥辱に耐えられなかったときだ。
そのときにはもう、気づいてしまっているのではないか。月龍という男に、蓮が身を犠牲にするほどの価値などないのだと。
そうしたらきっと、帰ってくるのと同時に別れを言い渡される。
どうすればいい。どうすれば蓮を引き留められる?
考えている途中で、思う。
もし蓮が月龍を見限らず、「命令」を守るために楊闢を受け入れてしまっていたら――と。
ぞわりと、言い知れぬ恐怖が足元から這い上がってくる。そのようなはずがない、彼女はあの男を嫌っているのだからと、結局は思考が戻る。
しかしふと、ある可能性に気づいた。もしかしたら蓮も、月龍を試しているのではないか、と。
月龍が、逃げ戻ってくる蓮を待っているように、蓮も月龍が引き戻しに来るのを――出世よりも蓮を選び取るのを待っているのではないか。
思いついた瞬間、立ち上がる。何故今まで気づかなかったのだろう。蓮の期待を――そして後を追い、蓮を止めることが想いを伝える手段になると。
時間は――どれくらい経っているのだろうか。思考の袋小路に迷い込み、酒を飲んでいたせいで時間の感覚がよくわからない。
けれどまだ、深夜と呼ぶには早いくらいではないか。
だとすれば、間に合うはずだ。
月龍は意を決して、踵を返した。




