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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十章

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第十話 髪留め


 その日の夜は、眠れるはずもなかった。ただなにもせず、蓮を抱きしめて眠ったふりをする。

 蓮も抜け出そうとはせず、腕の中におとなしく収まってくれた。


 ぬくもりが、胸に痛い。

 蓮は一体、どのようなつもりなのか。本当に行く気なのだろうか。


 翌朝、出立のときにも訊ねた。「嫌ならば行く必要はない。それでも楊様を訪ねる気か」と。

 眉尻を下げて笑みを作った蓮に見送られ、楊闢と会う。促され、了承の旨を伝えたときの驚きに瞠った目が印象的だった。

 受託されるわけがないとでも思っていたのか。すぐに薄笑いが滲んだところが楊闢なのだろう。

 それでも「蓮の気が変わるかもしれない」などと確約を避けたのは、月龍の願望の表れだった。


 ――そう、やめてほしい。

 ただ縋って甘えてほしいだけだった。本気で、蓮を他の男に渡したいはずがない。


「先日の髪飾りは、まだお持ちですか?」


 帰った月龍を、いつもの笑顔で出迎えた蓮に尋ねられる。


「紅榴石の? 持っているが――」

「よろしければ、貸して頂けますか?」


 月龍を見上げての質問なのに、目が合わない。視線が少し、下に向けられていた。


「――それと、できれば髪結いもお願いしたくて」


 申し出は、楊闢の元へと行く前提のものだった。


 蓮が髪を結い上げずにいるのは、亮に合わせたものかと思っていたが違った。家事などはうまくこなせるのに、髪結いが下手なのだ。

 趙靖の邸にいるときは侍女もいたが、わざわざ手を煩わせるほどでもないからと、公の場に出るとき以外は下したままにしていたらしい。


 いずれ共に生活するようになれば、普段はともかく、公で髪を結う機会には月龍が手を貸すことになるだろう。結婚後も従者を入れるつもりのなかった月龍は、気の早い話ではあるが準備をしていた。


 男と女では結い方も違う。また蓮の髪は柔らかく、自分の髪を結うようにはいかなかった。

 そこで髪質の似た亮に頼みこんで、練習させてもらっていたのだ。

 散々練習したので、今では蓮よりはよほどうまくできる。


 ――だがそれは、他の男に会う支度をしてやるためではない。


 先日の髪留めも、貸してくれと言われたがそもそも蓮のものだった。蓮に喜んでほしいがための贈り物だったのに。

 心痛を覚えながらも、表情に乏しい月龍の顔にはなにも表れてはいなかった。おそらくは淡々と見える顔、手つきで蓮の髪を結い上げ、髪飾りもさす。

 思った通り、蓮の髪によく映えた。それだけに物悲しい。


「――では、行って参ります」

「蓮」


 軽い会釈で出て行こうとする蓮を、思わず引き留めた。怪訝そうに振り返った蓮に言うべき言葉を見出せず、口ごもる。


「すぐに逃げてきてもいい。途中で引き返してもかまわない。――わかったな」


 本当はこのまま、掴まえて離すべきではない。わかっているのに何故、真情を吐露することができないのだろう。

 躊躇いに揺れる月龍を見上げて――蓮は愁いた眉で笑う。


「大丈夫です。きっとあなたの役に立つよう、振る舞って参ります」


 作られた儚い笑みに、返す言葉はない。

 会釈を残して馬車に乗り込む後ろ姿を、ただ黙って見送った。

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