エンディング①:裏切り
あの日、俺は七海の言葉に心を動かされた。
──やめて。
──殺さないで。
七海の涙に、俺は引き金を引けなかった。
拳銃を捨て、俺は“仕事”を捨てた。
組織を裏切った瞬間だった。
それでも、逃げられるわけじゃない。
「……七海。」
「怜人くん……本当にいいの?」
「もう決めた。」
俺は、彼女の手を取った。
「どんなに追われても、お前と一緒にいたい。」
七海の瞳が、涙で揺れる。
「一緒に……いられるかな……」
「わからない。でも、あの日みたいにお前を泣かせたくない。」
俺は、全てを敵に回した。
それでも、七海と共に逃げた。
──けれど。
逃げ切れるわけがなかった。
組織は、処理班を差し向けてきた。
それは、俺がよく知る、裏切り者を“消す”ための専門部隊だった。
「……追いつかれたな。」
夜の港。
船で国外に逃げる予定だった。
だけど、俺たちは包囲されていた。
「黒川怜人、覚悟はいいな。」
処理班の男が、冷たい声で言った。
七海は、必死に俺の腕を掴んでいた。
「怜人くん、逃げよう! まだ間に合う!」
「無理だ。」
俺は、微笑んだ。
「七海、お前は逃げろ。」
「……いやだ……!」
「七海、俺はもう、ここで終わる。」
「やだ……っ! 一緒に行くって言ったじゃん! 一緒に逃げるって──」
「気持ちは変わってない。」
俺は、七海の手を離した。
「だから、俺はここで終わらせる。
お前がこれ以上巻き込まれないように。」
「怜人くん!!」
俺は振り返らず、処理班の前に立つ。
──どうせ、逃げ切れるわけがない。
「最後に一つだけ。」
俺は処理班のリーダーに向かって言った。
「七海には、手を出すな。」
「……お前の願いを、組織が聞くとでも?」
「頼む。せめてもの……わがままだ。」
処理班の男は、しばらく黙っていた。
「……了解した。」
「怜人くん! やだ! やだよ!!」
七海の叫び声が、遠くなる。
俺は、最後まで七海を守れたわけじゃない。
でも、
七海を“組織”の手からだけは、絶対に守りたかった。
処理班が、俺に向けて引き金を引く。
その瞬間、俺は小さく呟いた。
「七海──お前と出会えて、よかった。」
銃声が、夜空に響く。
全てが、終わった。