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俺は勇者召喚で転生した  作者: K0-OTO
第二章 心の強さと危機感
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小さな成長


 恵美は完全に拒絶するのではなく、少しずつ受け入れていくことを決めた。 

 

 まず、ルイは、勇者たちの前においていたゴブリンを全て回収した。

 まとめれば、騎士たちが持っていってくれる。ーーあのゴブリンがどうなったかは、運んだ騎士にしかわからない。


 ぱんぱんと服についた砂埃を払ってから、ルイは、地面にへたり込んでいる勇者たちそれぞれにどこからともなく取り出した杖を渡した。


「じゃあ、魔法の練習をしようか」

「魔法……?」

「うん。他の勇者も殺すのは厳しいみたいだし、今日は魔法にしよう」


 ーーできれば最初はそれからにしてほしかった。

 最終的にゴブリンを攻撃できずに終わってしまった勇者たちの総意であった。


 なぜ先に近距離で戦う術をやることになったのか。

 出会ってから日が短い勇者たちでは、ルイの考え方の意味を読み取るのは不可能に近い。

 だが。

 どちらかというと魔法の方が興味あるんだよな、と勇者たちは思った。異世界に召喚される前から、魔法はロマンである。


「なんで突然魔法を?」

「魔法なら、離れたところから感触を感じずに倒すことができる」


 結局、これから覚えるものは全て、戦うためのものだった。

 それ以外はどうでもいいのではないか、と恵美は思い始めていたのだがーー。


「ーーだから精神的なダメージも少ない」


 さらっとルイは言った。

 それは先ほどゴブリンの首をスパッと両断して恵美たちの精神をボロボロにした人とは思えない考えだった。


「勇者なんだからやれなくてもやれ! とかいうと思っていました」

「……なんで? 勇者が倒れたらこっちの世界滅ぶんだけど? それに、トラウマは作らない方がいい」

 

 十分トラウマになるようなものを見た後なのだが。幸い、下手したら戦えなくなる人とかグロッキーになる人とかはいなかったけれど。


 ……もしかして、気を遣ってくれたのだろうか。

 

 恵美は、ほんの少しだけ、ルイの気遣いと優しさに触れた気がした。


「よし、とりあえずやってみようか」

「何も教わってないのでできるわけないです」


 いくらなんでも流石にそれは無茶振りであった。 

 恵美が代表してルイに発言したが、全員似たようなことを口にする。

 

 できるわけないと言われたルイは、首を傾げた。


「魔法って感覚で使えると思うんだけど?」

「使ったことないものは使えないです!」


 「でもできたんだよな〜俺……」と言うルイ。

 だが、ルイができても大半の人はできない。感覚でできてしまうのは、なんとなくでコツを掴んでなんとなくで上手くなってしまう人だけだ。

 いわゆる感覚派の天才肌。


「3000年以上前は魔法の感覚を掴まないと教えてもらえなかったんだけど」

「何ですかその感覚魔法練習法は」


 できるわけがない。

 そもそも魔法が存在しない世界で暮らしていたのにーーある日突然超能力が宿った! みたいに突然使えるようにはならない。


「感覚なんて掴めるわけがありません」

「まあまあ、落ち着いて。それは昔のことで、今は違うってことぐらいわかってるからね。そのぐらいわかってないと教えるなんてことはできないから。ちゃんと感覚から教えるよ」

「なら、よろしくお願いします……」


 荒ぶり始めている恵美を、ルイは嗜め、そのままストンと地面に座らせた。

 そのルイの手腕に勇者ーー特に金竜は驚く。あの猛獣を誠司とあいつ以外で落ち着かせることができるなんて、と。



「まず、勇者達にはステータスを見てほしいな」


 そう言われ、全員が一斉にステータスを開く。



名前:青花 恵美  

年齢:14歳 

種族:異世界人

称号:異世界の勇者

ジョブ:聖女

レベル:2

魔法:風、水、氷、光、聖

スキル:鑑定、異世界言語、杖術、聖女の祈り、天の祝福



 なぜか、レベルが一つだけ上がっていた。


「なんで?」

「なんでだろうな。俺もわかんねえや」

「あっ、誠司。戻ってきてたんだ」

「そりゃあこれから魔法を教えてもらえるならサボるのもやめるに決まってる。30歳を待たずに魔法を使えるようになるんだからな」


 サボりから恵美達のところに戻ってきた誠司が、恵美以外にだれにもみられないようにしながら、自分のステータスを見せてきた。



名前:赤坂 誠司  

年齢:15歳 

種族:異世界人

称号:異世界の勇者

ジョブ:聖騎士

レベル:2

魔法:無、地、火、雷、聖

スキル:鑑定、異世界言語、剣術、天の祝福



「誠司も上がったんだ……何もしてないのに」

「確かにサボってたけどその言い方はないだろ」


 恵美が周りを見てみると、ところどころからレベルが上がっていると言う声が聞こえてきた。どうやら上がったのは自分たちだけではなかったらしい。

 なぜ上がったのかはわからない。 

 離れたところでサボっていた誠司ですら上がっていたのだ。


「あの、なんでレベルが上がったんですか?」


 わからなかったから、恵美達はレベルが上がったことに気づかせてくれたルイに聞くことにした。


「レベルが上がるってどういうことか勇者達はわかってる?」


 恵美は首を横に振った。

 

「レベルがみんな一つずつ上がったと思うけど、そもそもレベルっていうのは成長を可視化したものだ。自分の殻を破って大きく成長した時、レベルは一つ上がる。そういう仕組みだよ」

「でも、私たちは何もしてません」

「十分やっただろう。ゴブリンを殺す現場を目の当たりにしたり、命を奪うということの覚悟を決めたり、ね」


 確かにやった。 

 だが、それがどうレベルが上がることに繋がるのかが恵美は理解できない。


「要は、精神的にも成長したということよね。あっているかしら」


 ずっと口を閉じていたアリスが、チラリとルイの方を見る。

 彼の口角が上がる。


「正解。勇者達の中でも君は随分鋭いみたいだ」

「考えればすぐにわかることです」


 そう言いながらも、アリスは少し嬉しそうだった。

 

「彼女が言った通り、レベルは肉体的な成長だけではなく、精神的な成長によっても上がる。自分の枷を破っていくイメージだね」


 アリスが言ったことと繋げるように、ルイはレベルの仕組みについてを解説した。


「それがなぜ魔法につながるんですか? 我は魔法が使いたい」


 人のことを言えないにも関わらず、ルイに『……中二病?』と聞いた彼・黒羽 千が挙手をして質問をした。

 この話ってそもそも魔法を使えるようになるための話だったはず……。

 魔法が使えると知って誰よりも喜んだだからこそ思い出したのだ。


「ああ、ごめん。そういえば魔法を使うための話の途中だったね。忘れてたよ」


 ナイス指摘。

 うっかり! というような表情のルイを前に、誠司は心の中で千を褒め称えた。どんどん道を外れていく話の流れを、彼は元の道へ戻してくれたのだから。


「魔法と精神的な成長がどう繋がるのか。それはまず肉体的な成長によって上がるレベルと精神的な成長によって上がるレベルの違いを知っておくとわかりやすいんだけど……」

「とりあえず、結論からでお願いします!」

「……わかったよ、恵美」


 目を爛々と光らせ始めたルイを恵美が止める。

 ルイが初めて勇者の名前を呼んだことに気づいたのは、この場には誰もいなかった。


「まとめると、精神的な成長をすれば魔法の威力が上がる。ちなみに肉体的な成長でレベルが上がった場合は単純に身体能力が高くなる。何もしていいない人間のレベルが1だから、精神的に1上がった勇者たちは本格的に魔法が使えるようになった。まあ、肉体はちょっと丈夫程度だけど。これでやっとスタートラインに立てるよ。よかったね。憧れの魔法が使えるね」


 勇者たちから熱気が立ち上った。

 ステータスに現れていた魔法適正の表記。適正があることがわかっても、今までずっと使い方が分からずもどかしく思っていた魔法がついにできるようになるのだ。


「これから魔法の使い方について手取り足取り教えていくから、とりあえず全員横一列に並んで」


 口で説明する講義はここで終わり。

 これからは実践だ。

 基本的には全員、普段はおとなしいクラスメイトたちも、やる気に満ち溢れている。


「恵美はきっとあっという間に習得するんだろうな」

「そうかな。脳筋の誠司よりは絶対に早いと思うけど」

「おい、おまえなぁ……」


 誠司は文句を言えずにいた。だって、事実だから。

 くすくすと静かに笑う恵美自身も、誰もが一度は憧れるような魔法を使うことができると、珍しく高揚していた。


 精神的なダメージを受けたくないと魔法ばかり使っていると、魔法を使う上で重要になってくる精神的なレベルアップがない上に、肉体的な成長もなくなるという残酷な仕様。

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