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運命の錬金術師  作者: 夜行
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第陸話 役割



 一方その頃ファルはというと。


 自室の研究所で実験の真っ最中だった。一応、王国お抱えの錬金術師なので研究所は王が住まう王宮の少し離れた敷地内の一角にある。以前は王宮の中にあったのだが、何度か実験に失敗して部屋を吹き飛ばしてしまい現在に至る。


 試験管を顔の前でゆっくりと揺らしながら変化を見守る。徐々に試験管の中に入っている液体の色が青から赤へと変わっていく。



「いいぞ~、もうちょっとだ」



 次に赤から紫まで変化すれば完成なのだが、その一歩が遠かった。


 ヴァンガル王国に響き渡る爆発音と試験管の液体が爆発するのは同時だった。



「なになになに!?」



 また実験に失敗して、しかもそれが大爆発を引き起こしたとなれば、もう王宮に居られないかもしれない。なによりリアからお説教を食らうだろう。一気に血の気が引いて来た。



「いやいやまてまてまて」



 一度冷静になってみよう。この試験管の失敗の爆発音がこんな大きな音になるものか? さすがにないだろうと、答えを導き出すが自分のことが信用できなかった。



「と、とりあえず外の様子をだな……」



 何事もありませんようにと祈りながらドアに手をかける。開けた瞬間に火の手が上がっていたらどうしようと思い、身体が硬直する。



「もう……ここにはいられないかもしれない……さよならリアっ!」



 ファルは勢いよくドアを開けた。すると夜の闇に炎の光は見当たらなかった。良かったー、胸を撫でおろすがそこで違和感に気が付く。空を見上げて、ふと。



「けっ、けけけけ結界が消えてるッ!!」



 その瞬間に人生が終わったと思って泡を吹いて倒れだす。追い出されるどころの騒ぎではない。絞首刑にされるかもしれない。遠のく意識の中である事が脳裏をよぎり、ファルはギリギリこの世に戻ってきた。



「リアッ!」



 気が付けばファルは王宮の中へと走り出していた。結界が消えたという事は安全がなくなったという事だ。そしてそれは青の心臓の持ち主であるリアへと向かう。王宮へ向かう途中で視界の端に何やら光る何かを見てファルは一度立ち止まる。高速で家の上などをヒュンヒュンと移動するその光る何かの方に視線を向ける。



「んん? あれは……」



 遠すぎてよくわからなかったが、その口は根拠がないが正解を言った。



「狗飼?」



 いや、さすがに見間違いだろうと思いなおす。ここはヴァンガル王国の中で狗飼はここには這入って来れないのだ。



「いや、その結界が消えたんだ……。でもなんで……」



 ここにいるのだろうか。顔なんて見えるはずもないが、とても焦っているようにも見えた。



「なにをそんなに焦って――」



 自分と同じだ。自分が今ここにいる理由と同じだ。走りながらも眼で狗飼を追う。きっとその方向にリアがいるはずだ。その途中でファルは一つの扉をあける。



「王様! リアは!?」



 そこには既に何人もの魔術師が王を守っていた。視線は一斉にこちらへと向けられるが、臆することなく歩みを進め王の前に立つ。



「リアは!?」



「わからぬ。パーティーの最中に夜風に当たると言って出ていったきりだ。そこから誰も見ておらぬ」



 それだけ聞くとファルは踵を返した。



「王に失礼であるぞ!」



 その場にいた誰かが言った。きっとその場にいる全員がそう思っているだろう。役に立たない錬金術風情が、と心の声が聞こえてくる。



「あんた達は王様を護っていればいい。それは私の役割に含まれない」



「貴様っ」



「よい」



 一歩動く前に言葉を挟む。それにより誰も動けなくなった。主の命は絶対である。そんな王を礼儀もない眼を向ける。



「よいのだ。ファル・リュミーナよ。娘を頼む」



 言葉なく走り出した。拳は爪の跡ができるほどに握り締められている。廊下を抜けて階段を駆け抜けて踊り場に飛び出す。あの塀の向こう側が微かに光っているのが見えた。あれはきっと狗飼の光だろう。迷子を導くような光に誘われて、ファル・リュミーナは三人の前に躍り出たのだった。


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