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運命の錬金術師  作者: 夜行
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第伍話 どこかで


 なぜ魔者がそこにいるのかは容易に想像がつく。自分の青の心臓を狙ってきているのだろう。しかし、だからと言って青の心臓を明け渡せば自分は死んでしまう。その選択肢はない。かと言ってこのクラウと名乗る魔の者と戦って勝てるとは到底思えなかった。


 そんな事よりも気になった事がひとつあった。


 お嬢ちゃん? そう呼ばれるのはいつぶりだろうか。過去に誰かに呼ばれていた気がする。あれは誰だったのか。それにすごく懐かしい気がした。ずっと昔から知っているかのような感覚。



「……どこかで、会ったことある?」



 思わずそんな言葉が出ていた。


 クラウは何を言っているんだと驚いた顔をして答える。



「いや? 初対面っすけどね」



 自分の勘違いだろう。魔者と面識があるはずがない。あるのは狗飼ただ一人だ。



「まさかこの状況でナンパするとは。第二皇女様は肝が太い」



「ナンっ!?」



 当たり前だがそんなつもりは毛頭ない。



「ただ! なんとなくそう思っただけ! どこかで会った事があるような、懐かしいような……」



 声がどんどん小さくなって、最後の方が怒られた子供が駄々をこねるようにゴニョゴニョ言う。


 それを見てクラウはフッと笑う。



「人間っていうのはまったく……。そんなことより、これからの事を考えた方がよくないっすか?」



 これからの事。そうだ。これから確実に大変な事が起こる。当たり前だが、戦闘経験など皆無だ。どうするかと悩んでいる時だった。王国全体に爆発音が木霊する。それと同時に結界が消失した。


 リアは空を見上げて眼を見開く。結界が消えた。それを意味する事は、他にも大勢の魔の者がここに押し寄せてくる。自分の生命の危機と、他に国民と国全体の存亡がかかっていた。



「安心していいっすよ。俺、一人なんで」



「……一人?」



 思わず聞き返してその言葉の意味を探る。結界を破ったのは援軍ではない? 



「まぁ、もうちょっと待ってくださいよ。すぐに役者が揃うんで」



 そんな事を言いながら城壁に投げだした足をぷらんぷらんとさせる。


意味がわからない。何が目的なのだろうか。誰かが来る前にさっさと殺してしまった方が都合がいいはず。時間稼ぎはこっちがしたいはずなのに、相手がしてくれている。



「何が、目的なの」



 答えが返ってくるとは思えなかったが、少しでも情報がほしかった。



「まぁまぁ」



 クラウはお茶を濁す。


 どうやら本当に危害を加える気がないようだった。死というものが遠のいた気がした。



「来たか」



 そう言ってクラウは立ち上がる。リアは無意識に一歩下がって警戒を強めた。その時だった。


 自分の目の前に閃光のように狗飼が立ちふさがった。



「大丈夫? ィアちゃん」



「ナ、ナクちゃん?」



「はじめまして狗飼ナクさん。それとも獣神と言った方がいっすか?」



「だれやあんた」



「私はクラウと申します」



「クラウ? あんたが?」



「はあい」



「知り合いなの?」



「いや、会うのは初めてやな。あたしがこっちに来てから産まれた吸血鬼で風の噂で聞いた事があるぐらい。不死の冥王だとか言われてる」



「恥ずかしい二つ名バラさないでくださいよ~」



「冥王……」



「それより大丈夫っすか~? 今にも消えそうっすけど」



 あざ笑うかのように言葉を投げ捨てた。それは狗飼に向けての言葉だった。


 狗飼の身体は稲妻のようなものがほとばしり、ノイズのようなものが身体全体を覆っていた。



「いや~、さすがに強引にあの結界をぶち破って来るなんて正気の沙汰とは思えないっすね~。今、立ってるのもやっとでしょ?」



「…………」



 狗飼は何も答えなかった。


 結界を強引に突破してでも、優先させる事が狗飼にはあった。



「ナクちゃん……?」



「大丈夫やから安心しぃ。あたしがなんとかしてあげるから」



「なんとか出来るとは思えないんすけどねぇ~」



 ヴァンガル王国の魔術師が総力をあげて創り上げた結界だ。それを一人で突破するというのもありえない話だが、いまだに五体満足でいる事もありえない状態だ。結界と一緒に消滅していてもおかしくはなかった。それほど強力な結界だった。


 それは狗飼もわかっている。だから今までここに来ることはなかった。わかったうえで結界を突破したのだ。



「ま、役者が揃うまでもつといいすけどねぇ~」



 クラウはさきほどと同じ言葉を繰り返した。つまり、まだこの場に来てない人物がいると言うことだった。


 狗飼はわかったうえで結界を突破したのだ。



「……アルさん、はよ来てくれへんかな」



 絞り出すような小さな声で呟いたのだった。



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