第肆話 招かれざる
それからの日々はいつもより早く感じた。終わってしまえばすべては過去だ。リアは王宮にある渡り廊下で夜風にあたっている。今日は自分の誕生日だ。普通なら普通の誕生日を過ごすだろう。しかし、王族はそうもいかない。パーティーを開かれ、挨拶回りにくたくただった。しかも、異性からのアプローチ付き。
十七歳になったのだから、そういう相手をそろそろ決めるころなのはわかっている。しかし、とんと食指が動かなかった。それは今の生活に満足しているからだろう。
熱を冷ますように月を見上げた。
「……綺麗」
思わずそんな言葉が出ていた。今日は満月だ。月光がやけに明るく感じる。眼を瞑っても月光が眼に届いた。瞼の中で思い出されるのは昨日の出来事。
仲のいい二人が自分の為に日をズラして誕生日パーティーを開いてくれた。たくさんのおいしい食べ物を三人で笑いながら取り合って食べた。ファルからはイヤリングを、狗飼からは髪留めを貰った。それをさっそくつけた時の二人の喜びようを思い出して、また笑う。
「楽しかったなぁ……」
それに比べて今日は、と嘆きたくもなる。きっとここに来たのは逃げ出したかったからだろうと、自分でもわかっている。そしてこれが王族の務めだという事もわかっている。
「二人に会いたい……」
思い出すのは昨日のことばかり。それを糧に今日を乗り越えようと思ったが、中々の強敵だ。しかし、それもあと少しで終わりを迎える。時間が止まることはない。
戻る前に、もう少しだけ満月を眼に焼き付けよう。そう思って、顔をあげる。涙がこぼれないように。
「いい夜ですねぇ~」
唐突にそんな声が聞こえて、ハッと我に返った。声のする方に顔を向けると、そこには足を外壁に投げて座っている人物がいた。
眼が、合う。
「こんばんは~。お嬢ちゃん」
「……誰?」
リアは警戒心を強めて一歩下がった。この城の者ではない。それはひと目見てわかった。そして、その者は人間でもない事がすぐにわかった。それはイコール異常事態だという事も。
なぜならこの国には結界が張られていて魔者は中に這入る事はできない。なのにそこにいる。そして自分の目の前に。それが何を意味するのか。リアは容易に理解する。
青の心臓。
相手の目的はそれだろう。魔者は何をするわけでもなく、そこに気怠そうに座ったままで名乗った。
「クラウでーす」
白髪、真紅の瞳を持つ吸血鬼がそこにいた。