第参拾壱話 血の音
物心がつく四歳か五歳頃だっただろうか。リアは一度その頃に命を狙われている。
魔者ではなく、人間にだ。しかも相手はヴァンガル王国の国家魔術師だった。それは単純にリアが憎いとかそう言った理由ではなく、王国の為だった。
当然ながら、その時すでに狗飼がいたが結界の外だ。そして狗飼が気が付けるのは外からの侵入してくる魔者だけだった。故に狗飼がそれに気づき、解決するのは無理がある。
そして、それを解決した人物は未だに見つかっていない。現場は血の海でかなりの出血量が伺えた。そこに倒れていたのは国家魔術師だけだった。王国内では、相手は相討ちで既に死体も残らず消えたのではないかと言われている。
幼かったリアは傷一つなく助かった。
どんな姿形だっただろうか。
どんな声だったろうか。
リアは記憶が探るが断片的にしか思い出せない。
その時以前にも会っている。最初は、たしか一人で遊んでいる時だった。階段から落ちそうになった時に、服の襟元を掴まれて助けられた。
それからいつのまにか近くにいて、おしゃべりをしていた気がする。
だが、思い出せない。
たしかに似ている気もするが、意味がわからない。
仮にあの時の人物がクラウだったとして、なぜ助けたのか。そして、なぜ今殺そうとしているのか。それはイコールには決してならない。助けると殺す。正反対だ。
「なんで……」
リアは目の前で自分の大剣を振り上げて、自分を殺そうとしているクラウに無意識にそんな言葉が出ていた。
なんで、助けたのか。はたまた、なんで殺そうとしているのか。その二つの意味を持つ言葉だった。
クラウは答えない。
あと一秒後には大剣を振り下ろしていてもおかしくない。
形勢は完全に逆転した。そしてそれがもう一度逆転する事はないだろう。
リアの視界が狭窄していく。
意識がどんどんと暗転していく。
瞼は重く、思考が続かなくなっていく。
そして、リアの意識は途絶え、その場に倒れた。
「リアッ!!」
ファルがせきを切ったように駆け寄る。だが、大剣を振り下ろす方が確実に早い。
なぜもっと早く動かなかったかと、後悔が押し寄せる。極度の緊張から心臓が高鳴る。
クラウは何も言わず、無表情でリアを見下ろし、大剣を振り下ろした。
まるで頭の中に心臓があるように心音が聞こえる。
ドッドッドッと。
血が流れる音が頭に響いた。
「ダメだッ!」
どう足掻いても間に合うはずがなかった。それでもその足は歩みを止めない。
無意識に、すがるようにファルは右手を前に突き出す。それを止めようとするが、手を伸ばしたところで届くはずもなかった。
不意に、その右手は何かを掴み、捩じった。そこには何もなかったが、たしかに何かを掴んだ感覚がファルにはあった。
そして、その瞬間。
大剣は地面へとめり込んでいた。




