第弐話 三人
二人で、あーでもないこーでもないと議論を交わす。内容はもちろん第二皇女の誕生日についてだ。はたから見たら奇妙な光景だろう。人間と魔者が誕生日について言い合っているのだ。どこぞの御伽噺としてありそうな光景でもある。
種族など関係がなく、お互いに一個人として見ている証拠だ。
議論も過熱に加熱を極めた時だった。店のドアが開きカランコロンと来客の音が鳴った。
「あー、やっぱりここにいた!」
どうやら探し人が居たらしい。そしてこの空間には二人しかいない。口ぶりからしてここに住んでいる狗飼ではなさそうだった。だったら答えは一つしかない。
「ファル、どこほっつき歩いてんの!」
怒りともとれるような、呆れともとれるような表情と声だった。
「リ、リア……」
見つかってしまったとバツがわるそうな顔をする。
「やっほー、ナクちゃん」
「やっほー、ィアちゃん」
お互いに右手を挙げて挨拶をする二人。それに挟まれて居心地が悪そうな人物が一人。逃げることはできないし、これから説教をされると思うとこんな顔にもなるだろう。
九歳も年下から説教される身にもなってほしいとファルは深いため息を吐いた。
「何よ、そのため息は」
「……なんでもありませんけど」
「またよからぬ事をして、捕まって、何か私に言うことあるんじゃないの」
「タイヘンモウシワケゴザイマセンデシタ」
「なんでカタコトなのよ」
そこから懇々とお説教が続いた。この場で唯一楽しそうにしているのは店主の狗飼だった。ニコニコしながらその様子を眺める。微笑ましくもあるこの光景。言い合っているのに二人とも楽しそうで、時折笑いもする。それを見ているのが狗飼は好きだった。時々、口を挟んでは火に油を注ぐのも忘れない。いつまでも、この平穏な日々が続きますようにとは祈らずにはいられなかった。
「ィアちゃん、もうすぐ十七歳のお誕生日やろ? お祝いしたいから前日にここに来てくれへん?」
「え? いいの?」
「もちろん」
「なんで前日? 当日でいいじゃんね」
聞くべきではなかったとファルはすぐ後悔をする。
「皇女様なんやから当日は忙しいやろ? それにあたしは国に入れへんから」
ヴァンガル王国は国を囲うように結界が張られている。人間には無害だが、魔者はそうもいかない。拒絶され侵入が出来ない仕組みになっている。青の心臓を狙われないようにするための大事な結界だ。
「あっ、ご、ごめんねナクちゃん」
「ええよ。二人がここに来てくれるだけであたしは満足やし」
ニコニコしながら返事をする狗飼と、困った顔をするリアと、後悔の念につぶされそうになるファル。リアは無言の圧でファルを一瞥する。それに気づいたファルはハッとする。
「ごめん、いにゅかいいいいいっ」
両手を広げて抱き着こうとするが、手で顔を押されて拒絶された。
「触らんといて」
「照れんなっていにゅかいー」
そんな呆れる行動が妙に心をくすぐられる。三人はしばらく間、笑いあったのだった。