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トリリスの娘  作者: ほーらい
始まりの街、序章
14/23

13 イリスと占い

第十三話


 長い金髪、青いドレスを身にまとい、胸にはオパールの宝石の輝くその少女は今日も街へ薬を売りにやってきていた。

 るんるん、と鼻歌を歌いながら軽快なステップを踏む。今日もきっと楽しいことが待っているのだろう。彼女は楽しげな様子で街中を歩いていた。

「あの……そこのあなた」

 ふと、アリスは見知らぬ少女に呼び止められた。アリスはくるりと振り向き、その少女と向かい合う。

 カールした黒髪を肩まで伸ばし、濃紺のローブに身を包むその少女は、おとなしそうな顔つきをしていた。歳はアリスとそんなに変わらないだろう。

「占い、って興味ないです?」

「占い……ですか?」

 少女はどこか落ち着かない様子で辺りをきょろきょろする。

「私、占い師なんです。でも、本当はここで商売しちゃいけないんです」

「例の許可証……ですか?」

「そうです……。でも、占いをしてお金を稼がないと生計が成り立たないです。そこであなた、お客さんになってほしいです」

「えっと……私、そんなにお金持ってないんですけど……」

 少女はにっこり笑った。

「お金は少しでいいです。私の占いを聞いて、それにお金を払う価値があると思ったらお金をくれればいいです。お客さんになってくれますです?」

 アリスは手に持っていた財布の中身を確認する。仮に銀貨一枚支払っても、まだお昼ご飯を買うお金は残りそうだった。

「じゃあ……お願いします」

「わかりましたです。えっと、生年月日を教えてもらえますです?」

「えーと……王暦1827年7月の12日生まれです」

「ちょっと待ってほしいです……」

 彼女は懐から水晶玉を取り出した。その中にふわりと魔法陣が浮かび上がる。

「んー、んんー……今日の運勢です。頭上に注意です。それから商売はあまりうまくいかないです。薬を売るときは一人一人のお客さんを大事にするです」

「ええ!? なんで私がお薬を売っているってわかったんですか?」

 少女は微笑みを浮かべる。

「本物の占い師はなんでも見通せるです。ほら、危ないです」

 少女はアリスの体をぽんと押した。アリスは少女に押されて数歩下がる。重い薬棚を背負っているのだから、突然押されれば非常に危ない。

「あ、危ないじゃな――」

 そのとき、上から何かが降ってきて、地面に当たって粉々に砕けた。それは土や花の入った植木鉢だった。

「大丈夫ー!? 怪我しなかった!?」

 頭上の二階の窓からおばさんが手を振って大声を出しているのが見える。

 もし、少女がアリスの体を押していなければ、植木鉢は彼女の頭を砕いたか、もしくは体に当たって大怪我をさせていただろう。

「命一つ儲けたです」

 アリスは口をぱくぱくとさせながら少女を見つめる。

「それじゃあお代はいかほどです?」

 アリスは財布を開くと、金色に光る金貨を一枚取り出した。

「毎度あり、です」

「あ、ありがとうございます……」

 アリスは真っ青な表情で礼を言う。

「それじゃあ、またご縁があったらお会いしましょうです」

 黒髪の少女はぱたぱたと足音を響かせながら去っていく。

 後には命が助かってほっとしているアリスだけが残された。



「で、商売はどうだったの?」

 アリスはその占い師の少女の話を姉達に語って聞かせた。

「その子の占い通り、商売はあんまりうまくいきませんでしたね……」

 マリスはアリスの話を聞いて唸りながら答える。

「んー、生年月日を聞いてくるってことは占星術かなぁー。それだけ正確に予知してみせるってことは相当の使い手だよぉー。それだけの実力があればきっと王宮とかに行けばお抱えの占い師として雇ってもらえるだろうねぇー」

「でも、あの子は決まった場所にお店を出すこともできないくらいですし……」

「そこんとこちょっと引っ掛かるなぁー。何か理由でもあるのか、それともペテンかぁー……」

「でも、私が薬を売っていることを当ててみせましたし、頭上に注意、だって……」

 マリスはぴんと指をアリスへ突き付ける。

「可能性として考えられるのは二つぅー。本物の占い師か、おばちゃんと組んでペテンをしたか、かなぁー。薬を売ってることはアトリエ商店に行ったことがあればわかるからねぇー」

「でも……嘘をつくような子じゃなかったですよ……?」

「アリスのそういうところを見抜く目は確かだからね。案外本物の占い師かもよ?」

 イリスが口を挟む。確かにアリスは抜けているところがあるが、人を見る目は確かである。

「その子の名前は聞いたぁー?」

 アリスはうーん、と唸って考える。

「そういえば名前、聞いてないですね……」

「あたしもちょっと占ってもらおうかなぁー。実際に見れば本物かわかるしぃー」

 マリスは立ち上がって部屋の中を行ったり来たりする。

「どうやって会うんですか?」

「アリスが会った場所らへんをうろついて探すしかないかなぁー。ま、とりあえず明日行ってみるよぉー」

 イリスは紅茶のカップを傾けて――

「ま、ほどほどにね。またこの前みたいに逆にやっつけて泣かせないようにね」

「む、姉さま人聞きの悪いー。まるであたしがペテンを暴きに行くみたいじゃなーい」

「どうせそのつもりだったんでしょ? ま、私は止めないけどさ」

 イリスは紅茶の香りを楽しみながらカップを傾ける。

「ま、ともかく行くだけ行ってみるさぁー」



 翌日、アリスとマリスは昨日少女と出会ったバロック通りの近くをうろついていた。少女がこの辺りで商売をしているのならば、またここに来ている可能性があるからだ。

「あ、いましたよ!」

 アリスが指を差す。そこには昨日出会った黒髪の少女がいた。

「こんにちはー」

「あ、昨日のお客さんです」

 黒髪の少女はすぐにアリスの呼びかけに気付き、アリスの方へとやってきた。

「昨日はありがとうございます」

「いえいえです。私の仕事は人を幸せにすることです」

 少女はにこっと可愛らしく笑った。

「そのついでにもう一人幸せにしてほしい人がいるんだけどぉー」

 マリスは二人の間に入る。

「私はこの子――アリスの姉のマリス。私も占ってほしいんだよねぇー」

「お客さんです?」

「うんうん、今度請け負う仕事の成否なんだけど、頼めるかなぁー?」

「お任せくださいです。生年月日を教えてほしいです」

「あたしの生年月日はねぇ……王暦1826年5月の10日だよぉー」

「はい、あいわかったなのです」

 少女は水晶玉を取り出し、小さな声で呪文を唱えた。すると、魔法陣が浮かび上がってくる。

「んー、んんー……そのお仕事は成功しますです。さすが天才魔女、マリス・トリリスです」

「おおーう、教えてないファミリーネームまで当てられちゃったねぇー」

「本物の占い師には見通せないことはないのです」

 マリスは驚きを表情に浮かべながら――

「じゃ、本物の占い師に出会えたついでにお名前を拝見してもいいかなぁー?」

 彼女はくすりと笑う。

「黒魔術師にみだりに名前を教えちゃいけないって母に言われたです。だから、名前は秘密です」

「うーん……ガードが固いねぇー。じゃ、これお代に取っておいて」

 そう言うとマリスは五枚の金貨を取り出した。それを見た途端、少女は慌てるように言った。

「こ、こんなにもらえないです!」

「まあまあ、こっちは看板が賭かってる勝負を占ってもらっちゃったからねぇー。それにいいモノが見れたっていう見物料も含めてかなぁー。ま、お近付きの印だと思って受け取ってよぉー」

 そう言ってマリスは強引に少女の手に金貨を握らせる。

「それじゃあばいびぃー」

「あ、ありがとうございました!」

 アリスはペコペコと頭を下げると、先に行ってしまったマリスの元へと追いつく。

 二人は完全に彼女の見えないところまで行くと口を開く。

「どうですか?」

「こりゃー一本取られたねぇー……。あの子は本物の占い師だよぉー。術構築も呪文詠唱もモノホンの占星術。しかも未来を読み取る技術も超一流。こりゃ来月の仕事は期待できそうだねぇー」

 マリスはニヤニヤと笑いながら雑踏の中を歩く。

「じゃ、あたしは戻るからお仕事頑張ってねぇー」

「あ、はい! お姉さまもお疲れ様でした!」

 アリスは大きく手を振ってマリスを見送る。マリスの姿はすぐに雑踏へと消えていった。


どうもこんばんは、ほーらいです。


今回は占星術が登場しました。

と、いっても占星術ってあんまりゲームに登場しませんよね。

僕が知ってる作品だと・・・FFTのオーラン様くらいですかね。

まあ、この作品に登場する占星術は割とアレに近いところがありますが。

それにしてもオーラン様の星天停止は強すぎますよね。

敵全体にストップ+ドンムブ+ドンアクとか・・・鬼過ぎます。

プレイヤーキャラクターになったらどれだけ心強かったことやら・・・。


まあ、それはさておき今後もいろいろな魔術がこの作品には登場します。

中には僕が勝手に作った魔術(たとえばリースドールの天星術だとか)なども登場しますので、あまり細かいところは突っ込まないように。


では、次回予告ですよ!


アリスは街で購入した新聞を持って自宅へと帰宅していた。

「石化する人々! 街全域で流行する謎の呪い! 大黒魔術師の仕業か?」

マリスは新聞の見出しを声高に読み上げる。

「マリス……ダメじゃない。街の人々に呪いなんかかけちゃ……。何の実験か知らないけど、迷惑かけちゃいけないのがトリリスの流儀でしょ?」

それを聞いて、イリスは呆れるようにマリスに言った。

マリスはその言葉を大慌てで否定する。

そんなとき、アリスは町長から一通の手紙を預かってきていたことを思い出した。

マリスが封筒を破いて中を読んでみると、それは案の定、石化に関する依頼の手紙だった・・・。


次話、14 イリスと石化

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