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トリリスの娘  作者: ほーらい
始まりの街、序章
12/23

11 マリスと決闘

第十一話


 高く日が上っている。

 空は青く晴れ渡り、雲一つない青空がどこまでも広がっていた。

 そんな快晴の空の下、マリスとリースドールは対峙していた。

 ここは森の更に奥にある山間の荒地。辺りには人もなく、動物も数少ない。この山は化け物が出るということもあって、近付く人はほとんどいなかった。

 そんな山間の広場に二人の少女が向き合う。少し離れたところにはアリスとイリスが心配そうな表情を浮かべて立っていた。

「戦いのルールはどちらかが気絶するまで徹底的にボコること! 手段は何でもアリ! これでどう?」

「問題ないね」

 リースドールは腰からワンドを抜き放つ。

「よーい……どん!」

 マリスは素早く腰からスタッフを抜くと、一気に距離を詰める。

「え……?」

 そして、大きく振りかぶるとまっすぐにリースドールめがけて叩き下した。

「ちょ、ちょっと!? あんたホントに魔術師!? 魔術を使いなさいよ!」

「手段は何でもアリ、なんでしょ?」

 そのまま距離を離さずに続けざまにマリスはスタッフをふる。それをギリギリのところで避けながらリースドールは荒地を駆ける。

「~ッ! このバカ魔女! 少しは離れな……さいッ!」

 リースドールは懐から札を出すと、それをマリスめがけて投げつけた。

「ふん、こんなもの……」

 マリスは常人には聞き取れないほどの速度で呪文を詠唱すると、スタッフを前に突き出した。

 見えない壁にぶつかって札の動きが止まる。札は壁に阻まれて爆発した。

「もっと骨のあるのを出してきなよ」

「ッ! これならどう!?」

 リースドールは両手を合わせる。

「陽よ! 我に力を貸したま――」

 しかし、呪文を唱えるリースドールへと横殴りにマリスはスタッフを振るった。

「ごふっ!」

 そのままリースドールは横に吹き飛んでいく。

低速スロースタート型の詠唱形式なんか使うなよ。そんなんじゃあたしには勝てないよ?」

「し、仕方ないじゃない! 大容量の魔力を扱うには低速型じゃないといけないんだか――」

 再びマリスがスタッフを振り下す。リースドールはごろごろと地面を転がって危うく回避した。

「人が話してる最中に攻撃するなバカーッ!」

「油断してる方が悪い」

 続けてスタッフを思い切り叩きつける。それをすんでのところでリースドールは回避する。

「ああなったら……マリスは止められないわね……。っと、アリス、大丈夫?」

「幼い頃のトラウマを思い出しまして……ちょっとめまいが……」

「ああ、アレか。アレは確かにトラウマになるかもね……」

 イリスは昔のことを思い出す。まだアリスやマリスが幼かった頃、アリスがマリスの大切にしていたおもちゃを壊してしまった。そのことにマリスは怒り、アリスを巨大なクリスタルケージに閉じ込めてしまったことがあった。

 両親が慌てて出てきてケージを外から割ってもらってアリスは助けられたが、アリスにとってはかなりの恐怖だったろう。なぜなら、そのケージの中には薬の材料用のムカデやらサソリやらが飼育されていたからだ。

「はいアリス、水」

「あ、ありがとうございます……」

 アリスは震える手で水の入ったボトルを受け取る。そして喉を鳴らして水を飲む。

「今のマリスはあの子に何するかわからないけど……いざってときは止める準備しないとね」

 マリスは相変わらず接近戦に持ち込み、スタッフを振っていた。それをリースドールはギリギリのところで避け続け、ときには打たれながら逃げていた。

「こ、このぉ!」

 リースドールは四枚の札を自分の周囲に配置する。札が強く輝き、陣が形成される。

「簡易守護結界……」

「ふん! これで暴力女からの攻撃は届かないわ!」

「ふーん……」

 マリスはスタッフで結界に触れる。バチバチという音がして、結界に阻まれる。

「今のうちに……!」

 リースドールは高らかに口語の呪文を唱え始める。

「こんなもので私の攻撃を防げるとでも?」

 対するマリスはスタッフを構えて高速で呪文を詠唱する。守護結界を破壊するための反対呪文。それはわずか数秒で唱え終わり、四枚の札が炎を上げて燃えた。

「――三星の一、太陽の力! 門戸を開きて降臨せよ! 天星術、“王の息吹キングスフレア”!」

 リースドールの足元から魔法陣が広がる。それは真っ赤に光り、強力な熱を持っていた。

「天星術……!?」

 二人を包み込むように炎が舞い上がる。太陽の力を借りたその炎は、精霊魔術の火など比類にもならないほどに強力である。リースドールは炎の燃え盛る音にかき消されないよう大きな声で叫んだ。

「ふふん! 三星の魔女の名が冠する通り、アタシの術はその三星、すなわち太陽、月、星の力を借りる天星術よ! たかが黒魔術師にこれが防げるの――」

「ふーん。三星の魔女の実力はこんなもんか」

 そう、マリスは冷たい声で言い放つ。その声の太陽をかき消すほどの冷たさにリースドールの表情が青くなる。

「ま、負け惜しみなら聞かないわよ!」

「それはどうかな、おチビちゃん?」

「~ッ! 太陽の炎よ! この魔女を食らいつくしなさい!」

 灼熱の炎が舞い上がり、マリスの姿を包み込む。

「お姉さま!」

「マリス!」

 二人の姉妹も思わず前に出た。物凄い熱量の炎が彼女の体を包み込んだ瞬間、マリスが負けた……いや、死んだとさえ思った。

 天星術、それは太陽と月、星の力を借りる強大な魔術だ。天体は精霊など比べ物にならないほどの力を持っており、威力を考えれば最高クラスの魔術であると言える。

「ふん、もう骨も残っていないでしょうね」

 そう、リースドールは憐れむような声で言った。彼女が手を振ると、炎は少しずつ勢いを失い消えていく。

 炎の中心にはもはや何も残っていなかった。

「マリスお姉さま!」

 アリスが飛び出そうとするのを見て、それをイリスが止める。

「アリス! まだあそこは炎のど真ん中よ! 飛び出したらあなたも焼け死ぬわ!」

「だ、だってマリスお姉さまが!」

「にゃはは、びっくりさせてごめんよアリス~」

 その場にいた全員が驚く。さっき確実に彼女は燃え盛る炎の中心にいたはずだった。

「こっちこっち、皆どこ見てるの~?」

 その広場の一角の巨大な岩の上に彼女は座っていた。

「な……!」

「あんな威力だけのバカ魔術なんて逃げれば一発だよねぇ~」

 そこからマリスは飛び降りる。優雅に着地し、スタッフを掲げた。

「なんであんた、“王の息吹”から逃げられたの!?」

「にゃはは~。……誰が教えるか、チビすけ」

 マリスはそう冷たく言い切る。

「今のが本気? あんな魔法程度じゃあたしの本気を出すわけにはいかないね」

「~ッ! その言葉、言ったことを後悔するよ!」

「待っててやるよ。早く本気出しな」

「……アタシの奥義を見せてあげるわ」

 リースドールは両の手を合わせる。

「太陽よ! 月よ! 星よ! 我に全ての力を貸したまえ!」

 彼女はワンドで自分の周囲に円を描く。そこを中心に三つの円が分離する。

「陽は太陽、陰は月、中立は星! 攻撃は太陽、防御は月、中立は星! 能動は太陽、受動は月、中立は星! 三星の力全てここに降臨し、天の全ての力よここに集まれ! 天星術が奥義、“日と月の邂逅ロイヤルダイヤモンドリング”!」

 辺りが暗くなる。――太陽が月に覆われる。

「まさか……日食を無理やり作り出したっていうの!?」

 イリスは空を見上げて驚く。

 空には星が瞬き、そして太陽からはわずかな明かりだけが漏れる。月と太陽の距離が近いとき、月は完全には太陽の姿を覆いつくさず、ほんのわずかだけ光が漏れることがある。それを人はダイヤモンドリングと呼んだ。

「空に三星全てが揃う日……すなわち新月の日の昼しか使えない術だけれども、威力はあんたの黒魔術なんか比にならないわ! それに、この術は私以外辺り一帯全てが対象! どこに逃げようとも無駄よ!」

「誰があたしは黒魔術しか使えない、なんて言った?」

「え……?」

 彼女の周囲に四本の水晶の柱が浮かび上がる。色はそれぞれ赤、青、緑、黄。それはマリスの周りを漂いながらくるくると回る。

「何よ、それ。黒魔術でそんな魔術、聞いたことないわよ……!」

「当たり前でしょ? これ、黒魔術じゃないんだから」

「~ッ! それが何か知らないけど、発動する前に倒せばいいだけのこと! ダイヤモンドリングよ! この魔女を今度こそ撃ち貫け!」

 空に瞬く星から幾筋もの光が放たれる。それと同時にダイヤモンドリングからも特に太い光の柱が降り落ちた。

 何百何千の光はマリスはおろか、この山全域を飲み込むように降り落ちる。

「見境もない、ってのはよくないねぇ~。何より、この山は私達にとっては大切なものだからねぇ~。攻撃させないよぉ~!」

 マリスが手を振る。その瞬間、全ての光の柱が向きを変える。それは全てを飲むこむハズだった光が、マリスへと向かっていった。

「な、あんた死ぬ気!?」

「もともと殺す気で使ったんだよね? それともまさか本気じゃない、とでも?」

「~ッ! 本気よ本気! あんたなんか粉微塵にしてやるんだから!」

「ふ、やれるものならやってほしいね」

 マリスはスタッフを高く掲げる。すると、不思議なことに光の柱は四筋に分かれると、彼女の周囲に浮かぶ水晶へと吸い込まれていった。

「な……!?」

「なかなかの魔力だねぇ。ま、この程度であたしを倒そうってのは甘いけどね」

 三星全てから放たれた光は水晶へと吸収されていく。それはわずかもブレることなく、ぐんぐん吸い込まれていく。

「何よ……この魔術は!」

「お母さま直伝の精霊魔術だよぉ。精霊魔術奥義、“大エリクシルの結晶ストーン・オブ・フィロソフィ”。あらゆる魔力を吸収し、四大種へと変換、あたしの魔力へと変える反撃魔術カウンター・マジックだよ」

 徐々に月と太陽がズレていく。やがて空はもとの快晴へと戻り、星もダイヤモンドリングも消失する。

 だが、それでもなお四つの水晶は彼女の周りで砕けることもなく回り続ける。

「バカ……な……! アタシの全力が……すべて吸い込まれた……!?」

「さーて、反撃といこうかねぇ」

 徐々に回転する速度が早まっていく。それは吸い込んだ魔力を四つの属性へと変換し、解き放つ。

 赤い柱からは炎の蛇が、青い柱からは水の一角獣が、緑の柱からは風の龍が、黄の柱からは土の死神が具現化する。それはそれぞれの属性を具象化したエネルギー体。精霊といってもほとんど差支えないだろう。

「さて、これでもまだ抵抗を続けるならそれもよし、降参するなら泣いて侘び……」

「う……ぐすっ……! ひっく……! う……うわああああぁぁぁぁん!」

 突然泣き始めたリースドールにマリスも少し驚く。

「ううぅ……ごめんなさい、ごめんなさい! アタシが……アタシが悪かったよぉー……。お願いだからもう……もうやだあぁぁぁ!」

「それくらいにしてあげたら?」

 戦いに終止符が打たれたことを確認してか、イリスが前に出て二人の間に入る。

「もう彼女だって負けを認めたわけだし、それにちゃんと泣いて謝ってるでしょ? もうそれでいいじゃない」

「……そうだねぇ~……。ま、これくらいで勘弁してやるかなぁー……」

 マリスはぱちんと指を鳴らす。四本の柱は砕け散り、四体の化け物も塵となって消えていく。

「そういえばこの子、どうしてわざわざウチまで来たのかしら?」

「そうですね……。とりあえず、ウチに戻ってお茶にしませんか?」

 アリスが提案する。それにマリスとイリスも頷いた。

「リースちゃん、戻りましょ」

「……うん」

 リースドールはぐずぐずと泣きながら立ち上がる。

 マリスはやれやれと肩をすくめる。

「これにて一件落着、かにゃぁー?」


さて、部品第三部と同じようにこちらも内容に関する簡単な説明なんかを書いてみましょうかね。


気付いている方も多いと思いますが、今回登場した天星術は東方のパッチェさんの魔法が元ネタです。

日符「ロイヤルフレア」と、日&月符「ロイヤルダイアモンドリング」です。

前者は微妙に名前を変えましたが、後者はまんまそのままですね。

ついでに白状すると、大エリクシルの結晶もとある東方同人小説に登場する火水木金土符「賢者の石」を弄ったモノです。

・・・パクリはいかんですね!


東方はステキです。

スペルの名前だけでいろいろと想像をかき立てられますもの。

今後もいろいろ参考にさせてもらいますね!

・・・別に商用の作品じゃないし、いいよね?


ちなみにリースドールはほーらいのお気に入りです(何

即興で考えた割にいいキャラをしているので、今後も登場しますよ!

・・・本当はアリスとのいろいろ絡みがある予定だったけど、全然登場しない上に全然アリスと絡ませてもらえないガスト君が可哀想です、ハイ。


さて、次回予告ですよ!



戦いを終えた一行はトリリスの小屋へと戻ってきた。

大声でわめくように泣くことはなくなったが、相変わらずリースドールはめそめそと泣き続けている。

いろいろと試してみるトリリスの娘達だったが、何一つとして効果のあるモノはなかった。


次話、12 マリスと天才

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