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トリリスの娘  作者: ほーらい
始まりの街、序章
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0 光輝

第零話


 少女達の鼻歌が森の中に響く。

 濃密な霧をはらんだ森は魔女にとってこの上なく魔術を使うのに適した場所だった。

 三人の娘が大きな荷物を持って森の中を歩く。道などありはしない。だが、その中を少女達は迷うことなく歩いてみせる。

「ここらへんがいいかしら?」

「そうだねぇー。ここなら誰にも邪魔されることなく研究できるよぉー」

「魔脈も上々です。風水的にもここはいい場所ですよ」

 少女達は開けた広場に出る。そして、そこに大きな布を広げた。

「じゃあいくわよ?」

 白銀の少女は歌うように、高らかに精霊との誓いを結ぶ。

“ここにおわします精霊よ、我にわずかばかりの力を貸したまえ。契るは契約、誓うは誓約。我らに過ごしやすい家を与えたまえ”

 あらかじめ布に刻んであった魔法陣に魔力が流れていく。

 すると布が盛り上がり、小さな小屋を形成していく。

「お母様ったら、こんな上級魔術を付与した魔法陣をくださるなんて……まったく、心配性なんだから」

 それは魔術によって布に封じ込めてあった小屋だ。あらかじめ作ったものをテントのように簡単に持ち運びのできるようにした簡易住宅である。

 金髪の少女は扉に手をかける。ぎいっという軋むような音を立てて扉が開かれる。

 外から見たものとは比べ物にならないほど広い部屋が広がっていた。これも高等魔術によって空間を拡張した特殊な部屋だ。

「私はこの部屋がいいー!」

「じゃあ私はここで」

「私はここにします」

 三人がそれぞれ三つあった扉を開くと、三人は目を輝かせた。

 金髪の少女の部屋にはいくつもの薬品や道具、材料などが棚に並んでいる部屋が。

 茶髪の少女の部屋には何百冊もの魔術書が棚に収められ、テーブルの上には水晶玉やドクロ、怪しげな材料が。

 白銀の髪の少女の部屋には精霊と契りを交わすのに必要な護符や触媒、そして地脈の力を測ったりする道具がいくつも収められた部屋が用意されていた。

「お母様ったら、私達の部屋を再現するなんて随分手の込んだことをしてくださったのね」

 白銀の少女は護符の一枚を手に取ってみる。それは自分が手垢が付くまで使い込んだものと全く同じ物だった。

「ああ、お腹空いたぁー。ご飯にしよーよ」

 茶髪の少女が声を上げる。ここまで来るのに長旅だったのだ。お腹が空くのも当然と言える。

「じゃあ、ご飯の準備しますね」

 金髪の少女は部屋を出て台所に立つと、あらかじめ用意されてあった野菜の類を調理し始める。

「ご飯は何ぃー?」

「じゃあ、ロールキャベツにしましょう!」

 少女はキャベツを剥くと、ひき肉を取り出して丸めて、カタクリ粉などを混ぜこんで、それを一つずつ紐で結んでいき、鍋へ落としていく。

「私手伝うことあるぅー?」

「じゃあ、ご飯をお願いしますね」

「らじゃー!」

 茶髪の少女は金髪の少女の隣に並ぶと米を研ぎ始める。

「私は食器の準備をするわね」

 白銀の少女は棚に収められた食器の類をテーブルの上に並べていく。


 彼女達はトリリスの娘。それぞれ名をアリス・トリリス、マリス・トリリス、イリス・トリリスといった。

 金髪のアリスは一番末っ子の魔女見習い。錬金術を学ぶ薬師である。

 茶髪のマリスは次女の魔女見習い。世界を面白くするために黒魔術を学んでいる。

 銀髪のイリスはしっかり者の長女の魔女見習い。人のためと信じて精霊魔術を学んでいる。

 三人は仲良し魔女見習い。いつも一緒で、けれども進む道は違って……。だけれどもいつでも三人は助け合ってきた。

 森の奥深くで暮らすことになっても、きっと助け合っていくのだろう。


「できました!」

 ロールキャベツをアリスは皿に取り分けていく。

「やっぱりアリスの料理は美味しそうだねぇー」

 マリスはご飯も出来上がっていないのにもかかわらず、さっそくフォークを伸ばす。

「ダメですよ。まだご飯ができてませんからね」

「ちぇー。アリスはそういうとこが厳しいんだからぁー」

 マリスは口を尖らせて不平をこぼす。

「アリスの言う通りよ。全部準備ができてから食べましょ」

 やがてご飯の方も準備ができる。マリスはご飯をフライパンに移すと、バターと塩で味付けしながら炒める。

「はい、準備完了ぉー」

 それを皿に取り分けていく。

「もう食べていいよねぇー?」

「はいはい、いいわよ」

 マリスはさっそく席についてロールキャベツをフォークで口に運ぶ。

「美味しいぃー! やっぱアリスの料理は最高だねぇー」

「ありがとうございます」

 アリスはにっこり微笑む。

「バターライスも程よい塩味だわ。マリスは本当に料理が上手くなったのね」

「えへへぇー。練習したもんねぇー」

 イリスはマリスのバターライスを褒める。マリスははにかむように笑った。

「辛ッ!? マリス姉さま、なんかこのバターライス凄く辛いんですけど!」

「えへへ、隠し味にアリスの分だけコショウたっぷりとトウガラシ入れちゃったぁー」

「ええ!? 私だけですか!?」

 こうして三人は笑いながら食事を済ませる。

 食器の片付けはイリスが行った。

「ふうー。お腹いっぱーい」

「トウガラシさえなければよかったんですが……」

 バターライスのことを根に持っているのか、アリスはマリスを睨む。

「人生面白おかしくないとねぇー」

「私は全然おかしくありません!」

 三人はほのぼのしながらお茶の準備をする。

「紅茶は何がいいですか?」

「私カモミールのハーブティーがいいなー」

「じゃあ私もそれでお願い」

 アリスはまずお湯を沸かし、ポットとカップを温める。

 最高の紅茶を楽しむためにはこの手順が欠かせない。

 そして紅茶の入った瓶を開くと、スプーンで紅茶の葉っぱを取り出した。それをポットの中に移し、よく蒸らしてカップに注ぐ。

「はい、どうぞ。こっちにクッキーもありますよ」

「やっぱ紅茶にはクッキーだよねぇー」

「ありがとう、アリス」

 アリスも二人の隣に座ると、自分のカップを傾けながらクッキーを口に運ぶ。


 こうして今日もトリリスの娘達は午後の一時を楽しみながら過ごしていく。

 これから彼女を待ち受けるものはなんだろうか。

 彼女達を待ち受ける運命がどんなものであろうとも、彼女達の紡ぐ物語をあなたは読み続けることができますか?

 これは幻想の中の小さな物語かもしれない。

 特別変わったこともなくて、彼女達にとっては当たり前の日常で、そんな何の変哲もない物語。

 そんなお話でも、あなたは読み続けてくれますか?

 決心がついたあなたは、彼女達の笑い声を頼りについてきてください。

 まだ迷っているあなたは……もう一度だけ考えてみてください。

 きっと彼女達も、足跡を辿ってくれる人が多い方が喜ぶでしょう。

 これは小さな物語。

 きっと物語は続いていく。

 いつまでも、どこまでも、ずうっとずっと、永遠に……。

アリスは錬金術師。

錬金術は薬を作り、人々の役に立つのが主なお仕事。

彼女は作った薬を街へ売りに向かう。

けれども、街の人々は彼女のことなど気にもかけないで・・・。

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