暖炉が見つめる愛の情景
「ばあさんや。わしは今年で何歳になったかのぉ」
「いやですよ、おじいさん。そんなことも忘れたんですか」
「ばあさんより年上だったと思うんじゃが」
「そうですね。それだけ覚えていればいいんじゃないですか」
「そんなものかのぉ」
「そんなものですよ」
「ところでばあさん。暖炉の火が小さくなってきたのぉ」
「そうですね」
「薪を足さんと火が消えてしまいそうじゃわい」
「では、薪を足せばいいではないですか」
「そうなんじゃがなぁ。もう家の中に薪がないんじゃよ」
「あら、それは大変」
「すまんが、外の置き場から取ってきてはくれんか」
「いやですよ、おじいさん。ご自分で取ってくればいいではないですか」
「そうは言うがなぁ。外は吹雪。年寄りにはちと厳しいのじゃ」
「それは私も同じです」
「じゃが、ばあさんはわしより若いじゃろ」
「それは関係ありません」
「関係はあるぞ。年上は敬うものじゃ」
「何を言っているんです。薪の管理はおじいさんの仕事ではありませんか」
「そうなんじゃが、わしにも事情が……」
「言い訳はいいから、早くいってらっしゃい」
「言い訳じゃと? 事情も聞かんで、言い訳とは聞き捨てならんな」
「あなたが薪を取ってくるのを忘れた。そこにどんな言い訳があると言うんですか」
「じゃから言い訳と言うな!」
「まったく、面倒なじじぃじゃな」
「何じゃと! ばばぁ、口の利き方に気を付けろ!」
「そっちこそ口の利き方に気を付けんさい」
「こんのぉ! やるのか、ばばぁ!」
「掛かってこいや、じじぃ!」
「後悔するなや!」
「ほざけ!」
「では行くぞ!」
「せーの」
「じゃんけん」
「ほい!」
「……」
「……」
「ばあさんや。わしは今年で何歳に……」
「夕食、作ってあげませんよ」
「……行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
「ばあさんや」
「なんですか」
「戻ってきたら、ばあさんの淹れたこぶ茶が飲みたいのぉ」
「いいですよ。おじいさんが薪を取ってくる。わたしがこぶ茶を淹れる。二人の共同作業というやつですね」
「何だか新婚の頃を思い出すのぉ」
「おじいさん」
「なんじゃ」
「愛しています」
「……うん」
「気を付けて」
「うん、行ってくる」
オレンジの炎がゆらゆら揺れる。
薪がパチパチ音を立てる。
二人を見守り続けてきた古い暖炉が、今日も穏やかに微笑んでいた。