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3 読み違い?

 輝子先生は今沙良さんのお宅に伺う前に、図面の上でわたしにざっとの方針を教えてくれた。


「ねぇえ、輪兎ちゃん。たまにご両親が泊まりに来るだけなら、和室は8畳も要らないわよねぇ。」

「そうですよね。日常的には、ほぼ死んでる空間ですもんね。」

「6畳にしてしまえば、畳2畳分、洋室の方に余裕ができるわ。幸いこことここにも梁があるから、間仕切りの位置は簡単に変えられると思うの。」


 たしかに。それなら、今よりはダイニングが広くなる。

「そして南側に少し増築して、リビングダイニングを広くしてしまうの。だって、南側、こ〜んなに空いてるんだものぉ。これくらいの工事なら、今沙良さんの言ってた予算の中で十分収まるわぁ。」

「動線の交錯はどうします?」

 先生はちょっと考えていたが、やがて、ほにゃ、と笑った。

「思い付かないわぁ・・・。階段かトイレ動かしたいわねぇ。もう少し予算出ないかしらぁ。」


 ・・・・・・(^^;)

 先生でもそういうことあるんだ。


「現地見たら、何かいいアイデア浮かぶかもぉ。」



 輝子先生とわたしが今沙良さんのお宅に伺った日は、真っ青な空に白く高い雲がすじを引いた絵に描いたような秋晴れの日だった。


「どうも、どうも、ありがとうございます。」

 今沙良さんはご夫婦そろって玄関で出迎えてくれた。先日訪ねてきた真一さんは、今日は少しラフに着物を着こなしている。休日の家では着物でいることも多いのだという。

 奥様の朋美さんは、当たりは柔らかいけれどはっきりモノを言われる頭の良さそうな人で、仕事はデキる——って感じの人だ。音大出身と言ってたけど、ピアノの先生以外も何かやってるのかな?


 玄関はたしかに、なんでここまで? というほどの吹き抜け空間だった。

 その吹き抜け空間の中を、階段が折れ曲がって下りてくる。ここを映画スターか誰かが手を上げながら下りてきたら、そりゃ絵になるかもしれないけど・・・。ここ、普通の住宅だよ?


 わたしはもう一度頭の中で1階と2階の平面図を思い浮かべてみて、あることに気がついた。わたしだって、間取り探偵・御堂寺輝子の弟子なんだからね。


 2階にあるのは寝室とクロゼットと納戸と子供室だ。どうやったって、1階より床面積は要らない。

 はは〜ん。それで、設計担当者が吹き抜けで帳尻合わせして誤魔化したな?

 屋根の形を複雑にすれば費用もかかるし、瓦屋根の場合雨漏りリスクも上がる。で、映画スターが降りてきそうな階段にしたらカッコいいって思ったんだろう。(^^;)


 でも、じゃあなんで、居間に吹き抜けを作らなかったの? と思ってから、わたしの推理は今沙良さんのあの言葉に行き当たった。

「冬のことを考えて、引き戸を付けてもらったんです」

 居間の吹き抜けは冬寒いのでは——という話に、その業者の営業担当はあっさり迎合したに違いない。他の解決法もあるのにねぇ・・・。

 でも営業が決めてきたら、設計担当者はそれでなんとかするしかない。その結果がこれなんだろう。


 うん。間取り1つで、8年前の状況が手に取るように分かるものだな。わたしも少しは輝子先生のやり方が分かってきたかも——。

(建築の方を学べよ! って声が聞こえてきそうだけど・・・)



 昼間も照明の点いた廊下を通って、通されたのは例の「狭い」というダイニングだった。

 たしかに。これは狭いわ・・・。(^^;)


 ダイニング(リビングも兼ねているから余計狭い)の南側には木製のデッキもあったが、輝子先生の言う「視線の伸び」にはつながっていない。なんでだろう?

 網戸があるからかな? でも視線は通ってるよ?


 ダイニングからはデッキの先に南の庭もよく見えたけど、庭というより荒れ地と言った方が近いかも。草刈りが間に合っていない、という感じで、隅の方は雑草が生え放題になっていた。庭木らしい庭木はない。


 草が刈られた真ん中で、女の子2人がボール遊びをしているのが見えた。網戸越しにはしゃぐ声が聞こえてくる。

 庭にはもう1人、男の子がいた。小学校の高学年くらいの年恰好だ。

 あれ?

 子供室、2つしかなかったんじゃ?


 男の子は私たちに気がつくと、こちらにやってきて、

「こんにちは。」

とサッシ越しに挨拶した。

 ずいぶん礼儀正しい子だな——。


「ああ、2番目の子のさとしです。いま小学5年生で——。ボール遊びをしているのは、長女の真里まりと末っ子のみどりです。真里は今年中学生になって、碧はこの家ができてから生まれた子で小学2年生です。」

 と、真一さんが紹介した。娘が可愛くて仕方がない、という表情をしている。

「女の子2人は、お転婆でもう。わたしたち2人とも仕事持ってますから、大変です。真里も女の子なんだから、たまには料理くらい作ればいいのにね。」

 奥様の朋美さんがため息を鼻先に浮かせるようにして言う。

 わたしは思わず、ちょっと目を逸らした。なんか、母親に同じようなこと言われたような気がする。


「そこいくと聡は、手のかからない良い子で助かります。誰に似たんだか・・・。」

「オレに似たんだろ?」

「あなたは十分手がかかるけど?」


 なんか、仲の良い家族だなぁ。


「家の中を見せていただいてもよろしいですか?」

 輝子先生はいつもの、ほにゃ、とした顔・・・・をしていない?

 なんだかちょっと、真剣な表情をしちゃってるけど・・・。どうしたんだろう? 簡単にはリフォームできないような問題点でも見つけたんだろうか?


 例によって、わたしは輝子先生と同じものを見ていながら、先生が何を見つけたのか、さっぱり分かっていない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 間取り探偵シリーズやっぱりめっちゃ面白い(*´Д`*) 続き読み始めましたよ! [一言] 幕田は仕事柄、工場の内装工事とかを請け負って建築業者さんと話す事があるのですが、建築界隈の仕事は本…
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