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1 リフォーム依頼

シリーズ1作目が予想外の反響(Ajuにとっては・・・です)だったので、ビビってしまい、なかなか2作目が書けないでいましたが、覚悟を決めて投稿します。


お楽しみいただければ幸いです。


「急ぐわ、輪兎ちゃん。すでに危険水域に入ってる。」

 輝子先生は、いつもになく眉根を寄せてわたしにそう言った。


   *   *   *


「輪兎ちゃんって、珍しい字を書くわよねぇえ。」

 10月になってようやく夏が終わったようなある朝、いつもみたいに朝のお茶をしながら輝子先生がわたしに言った。


「あ、これ。親の話では、輪っかに兎で月を表してるんだって。月みたいに優しく静かに人を照らす子になれ——って。名前負けですね。(^^;)」

 おっちょこちょいで、静かとは縁遠い。人を照らすどころか、輝子先生と同じものを見てるのに、なぁんにも見えてない。うっかりミスは多いし・・・。

 ・・・・・・

 い・・・いいとこ、ない・・・。 (。。;)


「親の期待があるのはいいことよぉ。特に小さいうちはねぇ。子どもはそこを拠点に、だんだん遠くに冒険に出てゆくものだからぁ。」

 先生はカモミールティーをひと口飲んでから、わたしの顔を眺めて言った。

「輪兎ちゃんなんかは、そのあたりいい感じに来れてるみたいねぇ。」

「そ・・・そうですか?」


 わたし、いい感じなのか?

 先生は、わたしのどこを見てそんなふうに思っているんだろう?

 でも輝子先生にそう言われると、なんだかちょっと救われた気分になる。うん。わたしにも、なんかいいとこあるんだ。自分で見えてないだけで——。(^^)


 そんな会話をした朝のお茶の後、玄関のインタホンの音が聞こえた。

「あら、みえたみたいね。はぁい。」

 輝子先生が玄関に今日のお客さんを迎えに出ている間に、わたしはティーカップを片づけ、テーブルを拭いて新しくお茶の準備をする。

 日本茶にしよう。紅茶系は今飲んだばかりだし。ちょうど冷蔵庫に和菓子あったし。



 訪ねてきたのは40代くらいの男性だった。電話ではリフォームの相談、ということだった人だ。

「今沙良です。」

と名乗った。


 話はちょっと横道に逸れるけど、わたしは輝子先生のところに来て初めて、日本茶のちゃんとした淹れ方を教えてもらった。

 日本茶はあまり熱いお湯で淹れると苦味ばかり出るので、湯冷ましというのをする。湯冷ましには専用の器もあるのだけど、輝子先生のやり方は湯呑みを温めるのと兼ねて湯呑みで覚ます。

 この間、急須にもお湯を入れて温めておき、湯呑みのお湯を入れる少し前に急須の湯は捨てて茶葉を入れる。

 湯呑みを手で触ってほどよい温度(茶葉の種類によって違うのだが、わたしにはまだよく分かっていない)になったら、湯呑みのお湯を急須に入れてしばらく待つ。

 この待ち時間が難しい。早すぎれば薄いし、遅すぎると濃くなりすぎて、しかも苦味も出てきてしまう。

 湯呑みにはいっぺんに全部注がないで、少しずつ均等に注いでゆく。最後の方の数滴に旨味が凝集しているそうなので、それを順に各湯呑みに均等になるように落とす。


 わたしがお茶と和菓子を持っていくと、ちょうど今の家の図面をひろげたところだった。図面はちゃんと製本してある。

 和菓子を陶器の皿に乗せたものと一緒に湯呑みをお客様の前に置く。

「どうぞ。」

「あ、どうも。」

 輝子先生の前にも置き、わたしは先生の隣に座る。今日はわたしの分もちゃんと用意してある。


 先生は湯呑みを持ち、ひと口すすってからにこっとしてわたしを見た。

「あら、上手になったわねぇ。美味しく出てるわよ。」

 それを見て今沙良さんも湯呑みに手を伸ばした。

「あ、美味し。」

 わたしはちょっと誇らしい。

「栗金団も美味しいですよぉ。全国的に有名な菓子店というわけではないですけど。」



 しばらくお菓子の話になった。

 今沙良さんは、さまざまな方面に知識の豊富な人だった。それでいて知識誇りをするようなところがなく、会話もユーモアと知性が嫌味なく滲み出るという感じ。こんな完璧に近い人が世の中に本当にいるんだ——と、わたしは思った。

 強いて言えば、痩せて少し神経質な目をしているところがこの人物を大きく見せない難点なんだろうけど、これで大人物に見えたら完璧すぎるよね。

 その目は常に大きく見開かれて、きらきらとして、こちらのどんな話にも興味津々という雰囲気だ。あまりにも子どものように澄んだ目なので、わたしにはちょっと怖くさえ思えてしまった。

 だって、何もかも見透かされているような気がするんだもの。


「実は、築まだ8年なんです。それでリフォームというのも変な話なんですが。」

 少し恥ずかしそうにはにかんだ目で、今沙良さんは話し出した。


 今沙良さんの話はこうだ。

 祖父の土地を借りて今の家を新築したのは8年前。当時、建築業者には要望を全部箇条書きにして伝えて、それをほぼその通りに実現してもらったはずなのに、住み始めてみたら全然違う。

 こういうイメージじゃなかったんだけど・・・という感じなんだけど、それがどうしてか分からない。


 輝子先生は開かれた平面図を見るなり、最初にこんなことを言った。

「狭いんじゃありません?」


 え? 48坪もありますよ、これ。

 輝子先生がこれまで手がけてきた住宅は30坪代ざらだし、28坪なんてのもありましたよね?

 それで「狭い」なんていうクレームついたことありませんでしたよね?


 48坪で狭い・・・。って、どういうこと?

 車庫の6坪を引いたって、42坪ありますよ、これ?




10月25日、誤変換に気づいて直しました。

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