第五十二話 王城の鐘が鳴るとき
私は徹夜の疲れと薬草の強烈な匂いでくらくらしていた。キッチンの裏口を開け新鮮な空気を入れる。その時、王城から鐘が響いているのに気が付いた。鐘には鳴らし方に種類があり、例えば御子様の御生誕を表す音色だったり、王太子殿下の婚姻の儀だったり。アクランド王国の城下に住む者は、大概の音色を聞き分ける事が出来る。
これは裁きの鐘の音。
三日後に王城で、身分有る人の裁きが行われる印。
裁きの庭で、各省庁の長官を招集し、罪人に断罪を下すのだ。
この音が城下一帯に響くということは、既に罪人は捕らえられ、準備が整えられているという事。
私は鐘の音を聞きながら、指先が冷たくなるのを感じた。
この鐘の音が好きな人間などいない。
この鐘が鳴るという事は、庶民が知っている貴人を断罪するという事になるのだから。
庶民に関係のない人間ならば、鐘など鳴らさない。
ある意味、盗賊などの悪人の裁判は日常なのだ。
ならば本来悪人と認識されていない人間の断罪になる。
例えば宰相、例えば魔法省長官、例えば王子、例えば六大侯爵。
それくらい誰でも知っている大物ということになる。
しかし私は誰が裁かれるのか知らない。けれども時間の問題で知ることになるだろう。それを聞くのが怖い。
震える指先に力を入れた時、遠くから本館の執事が歩いてくるのが見えた。手に手紙の様なものを持っている。本来離れの手紙は副執事が管理しているのに、本館の執事がそれを持っているという事は、それはそういう扱いをするべき手紙ということだ。
私はエース家の執事が近づいて来るのをぼんやりと見ていた。侍女なのだから、こちらから取りに行くべきなのだが、私の足は地面に縫い付けられたように動かない。
ああ。あの手紙は私宛なんだと頭の隅で考えていた。本館の執事が持ってくる私宛の手紙。とても良い知らせとは思えない。むしろ悪い知らせなのではないだろうか?
先程鳴ったのは裁きの鐘だ。そのタイミングでこの手紙。私は目眩を起こしそうになり、後から出てきた第三王子に支えられた。
「……裁きの鐘が響いていましたね……」
「……そうね……」
あれが裁きの鐘だと第三王子も断言した。ならば間違いなく裁きの鐘なのだ。
「……知っているの? 誰が裁かれるか?」
第三王子は私の瞳をじっと見つめた後、ゆっくりと首肯する。
知っていたのね?
私は執事から手紙を受け取り、そして中身を開けずとも送り主が分かった。
だってこれは勅命だ。国王陛下から呼び出しを受けたのだ。
それはきっと三日後。
つまり
裁きの日――








