第五十一話 ポーション等級
ポーションというものはF級ポーションのライセンスを持った者が作ると、F級ポーションと呼ばれる。ちなみにポーションを公に売る為にはライセンスを所持していなければならない。聖女科を卒業すればF級ポーションのライセンスが取れる訳だが、第三王子はまだ卒業していないので無級となり、金銭を貰うポーションを作ることは出来ない。ただ、自分たちで使うくらいのポーションは許可されている。イメージとしては自作して自分と家族くらいが使うというレベルだ。
なので私が作るポーションは全てF級になる。ただしそういった事情だから、効き目の強さや性質の高さで等級分けしている訳ではない。私も大学に行って指定単位の講義を受ければE級に上がる。制作歴プラス試験でも上級資格取得可能だ。二年後に受けてみようと思っている。
という訳で、私の作るポーションはF級ポーションなのだが……実は品質で等級を決めて欲しいなとほんのり思っていたりする。なぜなら私の作るポーションは自分で力作だと自負しているから。なんといっても患者の症状に合わせて作るオリジナルブレンドだ。少しは色を付けてくれてもと思ったり思わなかったり……。
ルーシュ様に許可を貰い、離れのキッチンを窓全開にして夜を徹してポーション作りに励んでいる。助手は第三王子。王子といえども学生なので、結構時間の融通が利く。炎症止めと化膿止めと痛み止め。かなり強めのポーションを作る。とても苦いがその辺は我慢してもらうしかない。
第五聖女の症状はハッキリと瞼に焼き付いている。落ち着くまでは毎日通い、私のいない時間はポーションで対応してもらう。
死んだ細胞――
死は死だ。生きていないという事だ。また息を吹き返すことはない。
もっと違う何か……。違う理論展開。
私は薬草を潰しながら、孤児院を訪問した時の事を何度も何度も繰り返し繰り返し思い返していた。
槍に目を突かれた令嬢――
第五聖女の事だったんだ………。そうだったんだ。公爵令嬢で第五聖女なんていかにも寄付に行きそうな立場ではないか? しかも王家の直轄地。王家以外に公爵家もそれなりに気に留めていそうな地。
槍が窓を突き破った時シリル様が庇ってくれた。
でも、もし――シリル様がいなかったら? そうしたらどうなっていたのだろう?
第五聖女が休学になった事をもっとしっかり考えるべきだった。
直ぐに様子を見に行くべきだった。怪我をしているなんて思いもしなかった。
いつもいつも畑仕事にへこたれていた第五聖女。貴族令嬢であの畑仕事にへこたれない人間がいたら会ってみたいわというレベルだ。
彼女の瞳の色はローズピンク。甘い桃色をしている。これぞ聖女の瞳という色だった。髪は真鍮寄りのストロベリーブロンド。性格は表裏なく朗らかな感じで公爵令嬢にしては、驕慢な所がなく、大切に育てられた悪意を知らないお嬢様という感じだった。
あの時、ルーシュ様が武器を捨てなければ三秒で手を燃やすと言った時、反転しかけた男は何人かいた。でも一人だけが燃やされた。それは見せしめの為に適当に選ばれた一人じゃなかったんだ。明確に槍を突いた男に焦点を絞って燃やしたのだ。
あの男の顔を思い出す。そうすると目の前が真っ赤になる。ああ憎いのだと思った。孤児院に寄付に行く令嬢の瞳を突いた男が憎い。そしてそれを命令した依頼主も憎い。第五聖女は自分が聖女科の授業を真面目に受けなかったから天罰が下ったと言っていたが、そんな訳ない。天罰でもなんでもない。依頼者の強欲な考えから起きた事件だ。依頼者が悪く、盗賊が悪いのだ。第五聖女には一片の罪もない。
昔、建国の頃はまだまだ混沌としていて、魔術も体系化されていなくて、禁術は禁術にカテゴライズされていなかった。大聖女はどんな聖魔法でも操ったと言われている。
彼女と共に聖魔法の一部は失われたのだろうか?
そんな事があるだろうか?
彼女の聖魔法の理論。
どこかに受け継がれていると考えた方が、必然ではないだろうか?
私はただひたすらに黙々とポーション制作をしていた。
このオリジナルポーションも私だったら誰かに作り方を引き継ぐ。
そうでなければ、次世代はまた同じ事を繰り返すのだから。
それでは人の革新はなされない。








