第五十話 お説教。
私は聖女として一貫して明るく振る舞い、治療を終えて部屋を出た。
が、出た瞬間目頭が熱くなる。
せめてもう少し早く言ってくれたなら……。
時は巻き戻らないが、悔しさは拭われない。
自制心で我慢はしていたが、第三王子には言っておくべき事がある。
彼は私の後から付いて来ていた。
第五聖女の部屋に声が届かない距離まで来た時、振り返り彼を視線で射貫く。
第三王子を睨むなんて、不敬罪で死ねる。
でも気にしていられない。私は第二聖女で彼は第三聖魔導師なのだ。
等級など持ち出したくはないが、言うべきことは言わねばならない。
「第三位聖魔導師。聖魔法は聖女のものにあらず。神が委ねたもうたもの」
「……はい」
「聖魔法は神の光であり神の意志。分かっている? つまり患者の意志よりも神の意志を優先させろという事。自分の手に余ると判断したら、上の等級の聖女に委ねる義務がある。今回はその義務を怠った。次回はないので心して」
今度やったら許さないという事だ。第三王子をエース家の侍女が許さないというのもおかしな立場なのだが、聖女等級は絶対だ。聖魔導師としての力の上下なのであくまで聖魔導師としては彼は私の下になる。そして一級しか違わないが、彼と私の間にある力の差は大きいと認識している。
第三王子は決して悪い子ではない。甘い子なのだ。王子という立場なのだが王太子の様な厳しい教育は受けていない。なんとなく聖魔法を学び何となく第三聖女をやってるという価値観。まだ子供だからとも思えなくも無いのだが、今回の判断は最悪だ。どうして公爵様も動いてくれなかったのだろう。自身も聖魔導師の筈だが、等級付きの聖魔導師ではない。
王子は粛々と聞いていた。というか私は一時間くらいお説教を出来るくらい憤っているのだが、そうは言っても早々にオリジナルポーションを作らなければならない。第三王子を助手にして完成したら彼に届けさせなくては。
私は王家の馬車で先に帰ってエース家で準備を整えるから、第三王子は公爵家の馬車で学園に行き、聖女科から必要な薬草を持って来るようにと言ってメモを渡す。
めちゃくちゃ王子を顎で使う。なんだかな……。第三王子は王太子にも顎で使われ、第二聖女にも顎で使われ、そういう運命にありそうな予感がする。可愛い子ではあるのだが、やっぱり弟分なのかも知れない。私なんかに説教されちゃ、王族としてのプライドが許さない筈なのだが、聖女科で長く過ごした所為か、もしくは聖女等級の所為か、または私に懐いてくれている所為か、それとも今回の事を自分でも猛省している所為か、今年留年してプライドも底を突いたのか、全部なのかも知れないが……。私の言ったことは全て素直に聞き入れ、かなり従順に行動に示した。
物事には取り返しの付くことも多いが、取り返しの付かない事もある。第三王子は第五聖女の婚約者で年下だから、強く言われると言うことを聞いてしまうのかも知れない。婚約者が涙ながらに訴えたら願いを叶えたくなるのかな? 私だって第三王子には強く出られるが、第二王子には言葉を告げない。立場もあるし身分もあるし、相性もある。私は聖魔法には自信があるから第三王子には強く出られるが、婚約者としては自信がなかったから第二王子には弱かったのかも知れない。そんな風に思いを巡らす。








