第四十八話 第三王子
そんな事を考えていると、第三王子がお忍びで私に会いに来たと副執事に告げられた。
第三王子? がわざわざエース家まで訪ねてきた……。お忍びで?
第三王子というのは第三聖女の事で、同じ聖女科コースの後輩だから、王子という身分であってもそれなりに仲が良いというか、可愛い弟というか、ちょっと生意気な年下という感じなのだが……王立学園の入学準備と称して入学前から聖女科に出入りしていたので付き合いの長さでいうと五年目だろうか? 結構長い。そう言えば卒業パーティーには出ていなかったな? 何で出ていなかったのだろう? 出てくれても良いじゃないか? 付き合いの長い聖女科の先輩が卒業するのだ。彼ら双子王子がいてくれたなら、寂しくはなかったのにな……と思う。
第三王子の名はカティス・エル・アクランド。何故? 双子王子の一方だけが訪ねてきたのだろう? と思いながら離れの応接間に向かった。応接間に入ると彼は真剣な面持ちで立ち尽くしていた。いや……座って待っていよう? 王子だよ? 私は王子と言えども後輩という立場で更に等級が上の聖女という立場だったので、あまり畏まらずに彼に声をかけた。
「カティス様、どうしたのですか?」
一応敬称を付ける。ちなみに聖女等級というのは結構絶対的な所があり、学園内では弟扱いを義務づけられる。つまり呼び捨てだった。
「第二聖女のお姉様。カティスとお呼びください。お姉様に敬称など付けられたら居心地が悪くなります」
あ、うん。そうなのね? 確かに大いに違和感があって空気が凍った感じがしたわね? じゃあ失礼してプライベートではこれまで通り、もしくは第三聖魔導師と呼ぶ?
「……で、どうしたの?」
彼は今年十四歳で割合幼さを残した少年のような青年のようなその中間の容貌をしている。やや灰味のアッシュグリーンの瞳とプラチナブロンドの髪をしていて、もちろん双子だから第四王子も似た容姿をしているのだが。髪の色はロレッタより少し金が混ざったプラチナだ。
聖女科の薬草が枯れてしまったのだろうか? 大いにあり得る話だ。でも枯れさせるわけにもいかない。だって次期のポーションの生産量にダイレクトに関わってくるのだから。しかし雑草のような自然栽培なので全部枯れるというのもどうなのだろう? ホントに何の用?
「急ぐようで申し訳ないのですが、僕と一緒に来てください。馬車はそのまま待たせてあります」
「え? 本当に急だね」
「そうです凄く急いでいるのです」
「なんで?」
「容態が急変したからです」
「容態?」
◇◇
私はなんだかまともな説明も受けぬまま、王家の馬車に詰め込まれて、座ったか座らないかの段階で馬車は出発した。危ないわ。つんのめる所だし。
まあ、聖女の急な呼び出しあるあるだ。なんせ聖女なのだから、授業中とかでもガンガン呼び出される。病気の急変なんかもそうだし、怪我もそうだ。特に怪我は突然やって来る。健康な人を突然襲う突発的事故。それは説明なんか二の次で、担ぎ出されるように連れて行かれることもしばしば。
まあ、今はそういう状況に違いない。案の上、第三王子は一人でブツブツとやっぱり馬で来るべきだった、でもあまりにも第二聖女のお姉様の乗馬が信用ならなかったから。いや、僕と相乗りすれば良かっただろうか? 一頭に一人の方が馬のスピードは速いのだが、馬車よりは二人乗りの方が速かった。判断ミスだろうか? でも第二聖女のお姉様と来たら、あんまりこう運動神経が良いともいえない身のこなしで落馬の危険があった。きっとこれが最善の判断だった。そう思うしかない。
しかし、第三王子というのも本人を目の前に結構失礼な独り言を言うわよね? 今、身のこなしがどんくさいって言わなかった? 言ったよね? 第二聖女の運動能力信用ならないとかさ。何故胸の内で言わずに声に出すかな? どういうことなのかな? ホントにもう。
私は私で口元でぶつぶつ呟きながら、でも舌を噛まぬように、独り言に対して独り言で返す。
そうこうして着いたのは公爵家だ。ああ、王家の親族か。それもあるあるだ。そりゃそうか。なんせ第三王子が使いで来たのだ。やんごとなき身分のお方に違いない。馬車が止まると同時に外に連れ出される。いや、ステップ。階段のステップ付けてくださいっ!
過日の出来事と被って、足首を再度挫きそうになった所、既の所で第三王子のエスコートを受ける。ああ、危ない危ない。一度あることは二度あるだわ。さて病気というのは公爵様でしょうか?
そんな事を考えながら、小走りに館に入る。ええ。貴族淑女としては有るまじきことなのですが、聖女あるあるです。








