第四十六話 聖女の扱い
シリルは王に話があって時間を取って貰っていた。宰相も同席しているが聞くに徹している。陛下は息子と宰相しかいないからか、苛立ちを露わにしている。
「第五聖女は我が叔父ぎみの孫。第三王子の婚約者だぞ」
「……心得ております」
「して、段取りは?」
「揃えて欲しい者がおります。魔法省長官、神官長、神官次官、上級神官、宰相、第一聖女、並びに今期聖女。魔法省官吏を四人、うち一人は腕の良い闇の魔術師、書記官。陛下の名の下にお願い致したく」
「……良かろう。揃わぬ者には次官を出席させる。それで良いな?」
「はい」
「して、そちの心づもりは?」
「………第一聖女は修道院へ。神官長には全ての責任を取らせるつもりでおります」
「その暁には、聖女等級を改め、第二聖女を妃にするように」
「…………」
「不服か? 王太子の妃は強い聖魔導師であらねばならぬ。それは決定事項。そして第一聖女が王太子に嫁ぐのが慣わし。言わずとも分かっておるだろう? お前は第二聖女を高く評価しておる。ならば何の問題もない。二人して次代を築けば良い」
「……第一聖女を修道院預かりにしたばかりで、直ぐに妃を娶るのは国民感情が、難しいのではと考えます」
「直ぐにとは言わぬ。来期、一年後だ」
「………」
「……お前は、不服なのかと聞いておる」
「……不服と言いますか、第二聖女の聖魔法を最大限に生かすには、彼女がある程度納得している必要があるのです。もちろん王家が伯爵家に納得して貰う等と下手に出るつもりは毛頭ありませんよ? 最終的には王家の為です。ただ、第二王子の件もありましたからね? 第二聖女は王家に上がる事に躊躇いがあると言いますか」
「言い訳を並べ立てるでない。第二王子とのいざこざで失った信用は、王太子であるお前が取り戻せば良いし、出来る力がある。それでもそんなつまらぬ事をぶつくさぶつくさ申し立てるのであれば、意が違うという事だ。真意を申してみよ」
「……真意は、第二聖女を王家に入れるよりは、セイヤーズ家と協力して協調して行きたいみたいな?」
王の額に青筋が浮かぶ。
「何を意味の分からぬ温い事を言っておるのだ? お前は頭は大丈夫か?」
「いたって正常ですよ? 父陛下」
王の額に青筋が二本浮かぶ。
「セイヤーズと協調というが、臣下と聖女を共有していったい何がしたいのだ?」
「例えば隣国が攻めてくる、セイヤーズが応戦しなければ、王都まで素通りになり城で迎え撃つ。我ら王家の安寧は六芒星の守りの府がある事が大前提なのです。六侯爵家は建国からの王の盾。盾を綺麗に磨いて維持するのは我らの務め。聖女一人くらい取りこぼしても良いではないですか? 実際聖女の囲い込みに対して不信感が募っております」
「それがお前の本音か?」
「まあ、本音の一部です」
「粛々と従ってきたお前にしては珍しいな」
「そうですね」
「王太子の考えは理解したが、最終的に決めるのは王であることも承知しているな?」
「承知しております。どうか賢明なご判断を。我が父君」
父陛下の額に三本目の筋が見えた気がしたが、見なかったことにしてさらりと流す。別に公式の場ではないし、父はそれ程心の狭い王ではない。
ただ、自分の息子の将来と国の未来を案じているだけだ。雷の魔導師である王太子にどうしても最強の聖魔導師を娶りたい。そう本気で思っているのが伝わってくる。王ではあるが親でもある。子を思う親心。








