【009】『面接中ですが、緋色の魔導師がフリーズしています(?)』
しょうが無いからその辺の事情も説明させて貰おう。詐欺みたいで恥ずかしいが、詐欺じゃないし、ただの事情だし。住む場所なくなっちゃうし。
「……聖女科」
紅の魔術師がポツリと呟いた。動き出しました! 良かったです。
「王立学園聖女科卒業見込みと書いてあるけど」
「はい! 聖女科卒業見込みです」
正確には三日前が卒業記念パーティーなので、もう卒業で良かったのかしら?
「……聖女科って……」
紅の魔術師はまた言葉を失った。固まらないで下さい! 戻って来て!
「……聖女科在学生は第一聖女が卒業してから四人しかいない。第三第四聖女は留年。第五聖女は休学中……ということは……」
彼は履歴書を見つめながら、若干手が震えている。大丈夫ですか? 聖女の履歴書想定外ですか?
「あの、私、婚約破棄されたんです」
「………さっきも、そんなような事を口にしてたね」
「そうなんです。三日前に第二王子殿下から」
そこまで言うと、紅の魔術師が熱い紅茶を吹き出した。
ギャーッ。熱い!!!
私の顔面に直射したから、私は自分の顔に水魔法を展開した。
いやマジ熱かった。良い仕事するね、職安の職員さん!
それを見た紅の魔術師は紅茶のカップを落とした。
カップは床で真っ二つに割れる。不吉! 割れたわ。
大丈夫ですが、魔術師さん。動揺しすぎですよ?
「第二聖女!?!」
職安の秘密の部屋に、紅の魔術師の大音声が響き渡った。
いやいやいや。さっき自分で絞り込みしてましたよね?
第二聖女って分かってましたよね?
そんなに驚かなくても? 振られれば誰だって就職活動くらいするよ?
だって働かなきゃ食べていけないし。おなかも空くし?
「……国が滅ぶ」
「え?」
「…………」
そう言ったきり、魔術師は頭を抱えた。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、双方向に馬鹿だった……」
「………」
? 今、私の事ディスった? 双方向に馬鹿ってどうゆうこと?
まさか私と第二王子殿下の事? あの馬鹿と一緒に括られるなんて心外なんですけども?
「つまり、三日前の卒業記念パーティーで第二王子殿下に婚約破棄を言い渡されて、今日、職安に来たと」
「そうです。その通りです」
理解が早くて助かります! さすが紅の魔術師! 国の宝!
「で、第二聖女ともあろう君はそんな戯言を真に受けたと」
「え?」
「や、だから、王子殿下の戯言を真に受けたという事だよね?」
「戯言?」
「戯言以外何?」
「いえ、戯言じゃありません。本気事でしたよ?」
「卒業記念パーティーで婚約破棄なんて、狂気の沙汰だ。戯言としないと処理できない」
「少なくとも、王子は本気でしたよ?」
「王子は本気でも国王陛下に取っては戯言だ」
「そうですか?」
「そうだろう。正式な婚約破棄証が出ているか調べてみるが、出ていないと思うぞ」
「………」
やはり国王陛下はご意見が違うという事か。
私は下唇を噛んだ。
「国王陛下がどんなご意見をお持ちだかは、私には分かりません。正式な婚約破棄証が出ているかどうかも分かりません。ですが私は大勢の貴族が集まる卒業記念パーティーで衆人環視の下、第二王子殿下に惨めに振られたのです。あれは事実以外の何ものでもありません。間違いなく現実です。現実は巻き戻ったり無かった事にはなりません。私は聖女の信念に掛けて、婚約が復縁することなど望みません。ここだけの話ですが、二度と夫とは思えないのです。無かった事にされたら、私は他国で流しの聖女になります」
「この国を敵に回す気か、発言には気を遣え」
「……すみません」
紅の魔術師は、深い溜息をつかれた。けどさ、発言に気を遣えってさ、あなたもさっきから王子とか敬称無しだし、王子のこと馬鹿とか言ってるし、結構? だと思うよ? 不敬度合いは私と変わらないわー。しっかし紅の魔術師って偉そうね。身分は王子より下だよ? 圧倒的に。少なくとも上に公爵家があって王族がトップだ。公爵家は王の親族と考えれば、まあ、行く行くは第二王子より下? と自信を持って言えるほどでもないけども。王家の親族を抜けば、事実上のトップが六侯爵家になるから、貴族ではやっぱり一番上になる。
まあ、建国時の王の右腕だものね? ちなみに炎の魔術師は六侯爵家の中でもトップの序列。立場的にも権勢的にもトップ中のトップだ。それは建国語りを読めば分かるのだけど、王と炎の魔術師は一番最初の盟友だからだ。分かりやすくいうと、泥沼の時代に一緒に立ち上がった親友という位置になる。この建国語りの六人の賢者が格好良いんだよね? 挿絵が入っているのだけど、みんなイケメンで魔力も桁違い。そろそろ読み直そうかな? 定期的に読み直す名作リストに入っている。
「事情は分かった。色々調べてみるから、取り敢えず、この履歴書は預かっておく。以後の就職活動は自重して返事を待つように」
「いえ、困ります。私、四日後に寮を出なければならないのです。路頭に迷います。今すぐ返事を下さい」
「…………」
数分後、私の雇用先はあっけなく決まった。