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第四十二話 可愛い君。

シリル視点になります。



 馬車の中でロレッタがずっと泣いていた。ロレッタに少し打ち解けたアリスターと呼ばれる少年もブラックスライムを抱きながら、目に涙を溜めていた。普段は仏頂面の女の子と子供がしくしくしくしく泣いていると、ああ全部纏めて抱きしめて慰めるっ。という気持ちになるのだが、そうは言っても微妙にそうできる立場にもない訳で……。


 彼女と同じ空間にいて、彼女を見ていると、その仕草から目が離せなくなり、ついつい追ってしまう。それはもう学生の時からで、そんな風に自分が出来ているとしか思えなかった。今期の聖女の中でナンバーワンの第二聖女。

 

 ナンバーワンなのに第二聖女とはおかしな話だ。当然正すべき等級。ただ、出来れば傷が少ない方が良い。王家の傷も聖女達の傷も。第三第四は弟だから良いとして、第五は第四に繰り上げるか?

 もしくは第一聖女を空欄にするか? 空欄の方が不正が不正として目に付きやすい。


 第二聖女は……伯爵令嬢とは思えない程素朴な子で。あの聖力だから疑問に思わなかった訳はないと思うのだが、第一聖女を追い落とそうなどと考えた事もないに違いない。


 運命か必然か偶然か。ロレッタが第一聖女であったなら、話はこんなにややこしくはならなかった。婚約破棄、通称『真実の愛』事件として第二王子が王籍を離れた事は大きく庶民に浸透しているが、やがて人々は気付くだろう。第二聖女は今度は誰と婚約するのだろう? と。貴族は当然水面下で動いているし、セイヤーズ侯爵も動いた。ロレッタは正式に侯爵家養女になる事が王家に受理された。セイヤーズ侯爵令嬢だ。意に染まぬ結婚を強要されるような立場では無くなったが、教会の不正を解決した暁には必ず出るだろう案件。王子達と聖女の婚約見直し。陛下からすれば必ず第二聖女を王家に迎え入れる方法を考えてくる。その時点で婚約者がいないのは第四王子、第五王子、そして王太子の自分――


◇◇


 孤児院から帰宅すると、妃が夫の渡りを待ってるという。いや、今日はそういう気分ではないのだが。それを従者に言うと、ではそういう気分にはいつなるのですか? と。永遠にならないな? と思いながら頷いた。


 今日の孤児院訪問で粗方証拠は揃った。公にすれば妃は妃でいられなくなる。どういう処置にするか? 穏便に上級神官にでも下賜するか……。未練も憐憫も何もない。元々教会育ちなのだから、元の居場所に帰るだけだ。


 第一聖女とは聖力が一番強いから第一聖女と指定される。何故彼女が第一聖女になったのかと考えれば、当然聖女等級審査の不正。この不正は王家並びに国民を欺いた事になるのだから、罪は重い。ただ、第一聖女の意志のみどうこうして第一聖女になれる訳ではない。つまり彼女を第一聖女に推した大人がいる訳だ。もちろん神官長だと考えられる。神官長が何のためにそんな事をしたかというと、次期王妃の後ろ盾になる為な訳だが……。そこまでして王妃の権力が欲しい? 何の為に?  


 教会のような大きな組織と事を構える時は、事前に外堀を埋める必要がある。六侯爵家、公爵家、貴族はもちろん味方につけなければ動けないのだが、教会の最大の力は国民だ。国民の世論を変えてからでないと動けない。そして組織から個を引き離さなくてはならない。その為には個に協力した立場の者は深追いしない。神官長と教会を切り離す一番効率の良い方法は、次官と上級神官を抱き込む事なのだが……これが神に仕えるものなので、融通が利きにくい。



 王太子は従者の用意したローズ色のポーションに口を付ける。このポーションは脳が正常な思考を阻害する程の甘さで、苦手だった。所謂中和剤だ。


 正攻法で何処まで追い詰められるか……。そんな事をつらつら考えながら、王太子妃のいる宮へ向かう。結構遠い。本来は同じ宮住まいにしても良いのだが、物理的な距離は精神的な距離にも影響する。つまりは危険回避の為の距離感なのだが……。


 

 耳の奥に第二聖女の泣き声が響く。君の声が聞こえる。別れが悲しいと泣いている。ミモザの花が、降るようで悲しい。スライムの鳴き声が切ないと言って泣く。ずっと変わらない君。アイスブルーの瞳に隠された、仄かに甘い心。


 ふと王太子は自分の両手のひらを見る。どうか――

 自分の欲望が溢れ出ないように。体の奥深くに沈めて、決して表に出て来ぬよう。


 何度巡り会っても、僕は君に、君は彼に。

 運命の轍は永久不変に繋がり続ける――


 今夜はきっと君の泣き声が、耳から離れない。








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