第四十一話 ブラックスライム
草だらけになった三人はすっかり打ち解けて、院長が待つ孤児院に戻る。戻った頃には日も暮れかかり、結構森で話し込んでたのではないかと思う。クロマルと紹介されたブラックスライムは「オャ、オニャー」と鳴く。大変珍しいスライムだと思う。というかどことなく猫っぽいよね? 耳とか尻尾とかが。黒くて丸くてふわふわ? で賢くて優しくて誰よりも温かい存在。スライム自体の体温は低く冷たいので、温かいはまあそういう心の存在という意味なのだろう。
院長はドアの前で待っていた。そしてこのアリスターと自己紹介した少年の首にロザリオを掛けてギュッと抱き締める。「あなたの前半生は悲しい事も辛い事も多かっただろう。親がいないのは子供の所為ではないのに、それを馬鹿にされる事もあっただろう。当たり前に貰えるものが貰えない人生だった。けれどこれからは自分次第だ。良く勉強し、魔法も鍛錬しなさい。そうすれば、きっと幸せの一部が見えてくる。家庭は二種類あるが、自分で選び取った家庭を大切にして、後生は幸せに生きるのです。クロマルがあなたの人生の側に必ずいてくれる。それだけで、アリスターは恵まれている。あなたは幸せになれる子だ。魔力素養も持って生まれた事を誇りに思いなさい」そう言って、院長は彼の頬に頬を寄せた。
私は唐突な流れに驚きながらも、ああ今日保護するのだな……お別れなんだと思いながら院長の話を聞いていた。十年か……。この子は実の親からはまるで無かったように扱われたけれど、ここでこの人に愛情を注がれて育ったのだ。それは最高ではないが最低でもなさそうだ。
「さあ、自分の荷物を纏めたら、クロマルに出会った藪に行って最後の挨拶をしましょう」
そう言って何故か私たちは、院長、副院長を始め孤児院のメンバー総出で森の藪に入り、そこでミモザの花を添えて、手を合わせて祈る。ここはクロマルと出会った場所と言っていたから、そういう場所なのだろう。場を覆うような黄色が一面に広がる。
大勢に見送られて馬車の前まで来ると、慌てて一人一人に焼き菓子を配って、そして院長先生にポーションを渡す。みんなで使って下さいと。そう伝えた。院長は今までで一番の笑顔を返してくれた。ポーションが素で嬉しいんですね! 分かります!
私達四人と一匹が馬車に乗り込む。
別れの時はなんだってこんなに寂しいのだろう。そしてそういう時はいつも必ず花が咲いていて、黄色いミモザの花が降るように見送ってくれるのだ。
馬車が動き出すと猫が鳴く。クロマルが森に向かって鳴き続けている。そんな姿を見ていたら、ロレッタも胸いっぱいに悲しくなって、ぐしゅぐしゅと涙ぐむ。クロマルは賢い子なのだ。きっと別れがたい何かに鳴いている。ミモザの花が咲くあの森に何か大切なものを残して行くのだ。
私はアリスターよりもおいおい泣いてしまい、なんで私がアリスターを差し置いてこんなに泣くのだろうと、不思議な気持ちになり、そうは言っても泣けるので、馬車の中はなんだかしめっぽい空気のまま、微妙に沈黙しながら進んで行った。








